脳卒中後や脊髄損傷後などの中枢性運動麻痺で生じる「痙縮」と呼ばれる筋緊張亢進状態は,その程度が強まるほど麻痺肢の異常肢位が強まり,そのことが起居や歩行といった日常動作を阻害する.具体的にはスムーズな動作の妨げ,動作のエネルギー効率の悪化,最悪の場合は常に介助を要する状況を招く.痙縮は安静時評価が臨床の標準だが,そもそも動作時により増強する症状であるため,安静時評価だけで適切な判定を行えているとはいい難い.本研究は,動作時に増強する痙縮を定量的にとらえられるような計測装置の開発を目指している,その実現によって痙縮治療の質向上につなげたいとの意図がある.なお,痙縮は身体のあらゆる部分で現れるが,本研究では定量評価対象を足部痙縮(内反尖足痙縮)に限定した. まず,健常ボランティア(理学療法士)2人を模擬患者とし,プラスチック短下肢装具をベースとした全周性外骨格構造の装具を製作し,その内側に小型圧力センサーを数か所設置した.健常ボランティアには,同装具を装着の上,その中で足部を随意的に内反尖足位にしてもらったときのセンサーの反応をオンタイムに記録した.センサーの反応が良かったのは①第1指MP関節足背側,②第5指MP関節足底側,③足背前脛骨筋腱上,3か所であり,外果や下腿近位部でのセンサー反応は乏しかった.なお,内反では①②が,尖足では②③が良く反応した.以上より,内反尖足の変化(痙縮の変化)を圧で捉える場合,全周性外骨格構造物の①②③の3か所での圧変化をとらえることでオンタイムで定量化表現できると思われた. なお,健常ボランティアを対象とした事前検証実験ののち,実際の足部痙縮患者の研究参加同意者を対象に同様の検証実験を行う予定であったが,新型コロナ感染拡大状況の影響により,当初予定の研究参加者(2人)からは同意の一時撤回があり,予定研究期間中の再開が叶わなかった.
|