研究課題/領域番号 |
19K11395
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山崎スコウ 竜二 大阪大学, 先導的学際研究機構, 特任講師(常勤) (10623746)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒューマノイド / コンパニオンシップ / 愛着 / 適応 / 社会的ニーズ / 専門家コミュニティ |
研究実績の概要 |
高齢者施設や病院での実験が困難な状況が続いたことを受け、在宅での実験に切り替えた新たなアプローチを取り入れて研究を進めた。コロナ禍で高齢者をはじめ孤立やフレイルの問題が深刻化しており、精神科医らとともに本人ならびに家族の了承を得て、軽度認知障害(MCI)、軽度認知症者の独居宅等での生活や症状の実態調査を開始した。主に独居高齢者宅で対話ロボットの適用を図り、効果や多様な影響を評価するため数ヵ月から1年を超える長期実験を実施し、追跡調査を行った。MCIの高齢者を中心に、認知症高齢者、さらに比較のため健常高齢者を対象に対話データを収集するとともに、高齢者のロボットとの日常的、継続的対話における適応過程で精神的安定や生活習慣の変容、家族関係の変容など多様な影響や効果が見出された。これまでの認知症の症状判定、予測モデルの開発、対話システム自動化の研究推進とともに、在宅等における高齢者の不安、孤独への対話的アプローチを進展させるため、社会的・文化的文脈を考慮に入れてメディアの効果や影響を抜本的に再検討する観点から国際比較研究への展開も企図した。イスラエルの人類学者を招へいした交流、共同研究に発展し、多様な文化圏における孤立やAI、ロボットとのコミュニケーションにおける相互関係、人の自己認識に関する国際的議論を深めるネットワークを築くことができた。さらに高齢者の対話特徴抽出のための比較対象として若年者の対話データを収集し、併せて社会的なロボットのデザインにおいて重要な点を明らかにするため、学生を対象にロボット対する認識についても調査を行った。ロボットが保持する記憶、また複製可能なロボットの同一性、それらの価値に関して、人が持つ印象や思考の評価実験をデンマークとの比較実験として実施し、データに基づいて今後議論を深める土台を築く成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フィールド実験で一部方針を転換しつつ、新たなアプローチで発見を得ながら対話データの収集を進め、かつ国内外での議論を進めることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
多様な属性を持つ少数の高齢者を対象に長期的に調査するフェーズから、均一の属性を持つ多数の高齢者を対象に中期的に仮説の検証を行うフェーズに移行する。また、MCIあるいは認知症のある高齢者との比較対象として、健常な高齢者ならびに若年者の対話データ収集、調査も規模を拡大して進める方針である。その中で、とりわけ対話による言動の誘導に伴う倫理的課題の検討は急務であり、ユーザがロボットと一緒にいる間だけでなく離れた後に受ける影響についても、詳細な実態の調査に基づいた議論が求められる。長期の利用により、MCIや妄想症の独居高齢者がロボットに対して強く、人に対する以上の愛着を形成することがわかってきた。そのため、感情的なつながりが及ぼす影響や効果を倫理学的観点から再検討する作業の推進が必須である。さらに国際的な異文化間の文脈や、ロボットが満たすことが期待される社会的ニーズ、要請といった観点も考慮しながら再検討を進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額はコロナ禍での実験方法や日程の変更、機材等物品の再検討、調査の実施に伴う諸々の調整のために生じた。使用計画として主に実験実施、機材調達、資料収集、またオンライン集会を含めつつも今後は対面での議論を重視して国内外での研究動向調査および発表に用いる。
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