最終年度は在宅でのロボット対話実験で自己開示等をテーマにデータ解析を進め、高齢者が自己の情報を話しやすい対象、すなわちロボットと人、顔見知り程度の知人と最も親しい人、これらの比較とともに情報の活用について検討した。論文の投稿などで研究の総括を図ることと並行して、研究の発展を図るため、ロボットの改造に係る企業との協働に至り、連携する体制を築いた。本研究は当初、アンドロイドロボットを用いて認知症の行動・心理症状(BPSD)改善に向けたロボットメディアによる誘導の効果が明らかになってきたことを踏まえて、市販の人型ロボットに応用可能な遠隔操作型の対話システムを開発し、効果検証を進めた。さらにBPSDが悪化する前に対話によって対処する方策を検討する糸口として、BPSDの重度化との関連が知られる認知症の重症度を自動で識別する手法を提案した。有効な変数として罹患期間に加えて対話への参加度を組み合わせることで予測精度が向上することを見出し、日常の対話データを用いた提案手法が大型装置等による従来の推定技術と相補的に発展するポテンシャルを示すことができた。COVID-19の影響から高齢者施設等から在宅での実験に切り替え、軽度認知障害、軽度認知症者のロボットとの継続的対話における適応過程で精神的安定や生活習慣の変容、家族関係の変容など多様な影響や効果が見出された。倫理的課題では、誘導的技術の開発は人の意思決定に対する技術的介入でもあり、人の自律性を尊重する立場に対し、効用を最大化して翻意するように導く立場を提起するとともに、利益や価値判断が恣意的になるリスクも考慮し、徳倫理に求められる公共性の観点からも議論を提起した。また愛着や幻想に関する倫理的な批判に関しては、実際の影響や考慮が必要な事項についてロボット撤去後を含む検証による議論のアプローチを提示して成果を論文化した。
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