研究課題/領域番号 |
19K11412
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
細 正博 金沢大学, 保健学系, 教授 (20219182)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 拘縮 / 慢性炎症 / 老化 / 創傷治癒 / 筋線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
引き続き、ラットの膝関節拘縮モデルに対して関節可動域運動による訓練を行い、関節可動域と関節包内の筋線維芽細胞数の変化を、血管内皮細胞の同定のためのCD34免疫染色を援用した上でのα-SMA免疫染色を指標として明らかにすることを目的として実験を行った。Wistar系雄性ラット18匹を用い、コントロール群、固定群、運動群の3群に無作為に分けた。ラットは8週齢のものを購入して1週間の馴化の後、9週齢から実験を開始した。固定化群と運動群のラットの右後肢の膝関節をKirschner鋼線を用いた独自の手技により120度屈曲固定し、運動群の動物は関節固定化の翌日から可動域運動を開始した。可動域運動は1Nの力で尾側に5分間の伸展運動を行った。2週間の実験期間終了後、膝関節の伸展角度の範囲を測定した後、膝関節を採取した。ラット膝関節の関節包後部を観察するために、ヘマトキシリン・エオジン染色とCD34、α-SMA免疫染色を行った。CD34陽性細胞に隣接しない単独で出現するα-SMA陽性細胞を筋線維芽細胞として同定した。膝関節伸展の限界角度はすべての群間で有意差があり、α-SMA陽性細胞数の差は対照群と固定化群の間で有意であった。これらの結果から、関節包の固定化は筋線維芽細胞の増殖をもたらすが、関節可動域を十分に維持できる軽度の運動を行うことにより、筋線維芽細胞の増加を抑制し、ひいては関節固定により惹起される関節包の線維化の進展を抑制できる可能性が示唆された。この結果はこれまでまったく知られていなかったものであり、関節可動域運動という理学療法的手技の有効性を示すとともに、その最適な負荷量を決定できる指標として、この筋線維芽細胞の出現数を用いることができる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
拘縮の基礎的な研究は理学療法学の分野にとって最重要の課題の一つと考えられるが、隣接する研究分野である整形外科学のみならず、内科学や解剖学などの他の分野でもまったくと言って良いほど研究が行われておらず、基礎的な研究の積み上げが求められている。 本研究ではCD34陽性の血管内皮細胞に隣接するα-SMA陽性細胞であるところの血管周皮細胞や平滑筋細胞を除外することで、これに隣接しない単独で出現するα-SMA陽性細胞を筋線維芽細胞として同定し、関節拘縮時における筋線維芽細胞の動向に注目し、関節運動が関節包内での筋線維芽細胞増生を抑制する可能性があり、不動による局所環境の変化を抑制する効果があることが示唆された。 筋線維芽細胞は創傷治癒機転により誘導され、肉芽組織などに多く出現するほか、様々な疾患における線維化に関与するとされる。関節拘縮とこれに対する関節運動による介入で筋線維芽細胞の出現に有意の変化が見られたことから、拘縮で見られる関節構成体の病理組織学的変化は、創傷治癒の一表現として理解することが可能であり、なおかつ広義の慢性炎症の疾患概念に含まれ得るのではないかとする仮説の妥当性についての、実験によるエビデンスの蓄積が進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
試験的な検討で70週齢の健常老齢ラットの関節構成体にも、拘縮時の関節構成体の変化と類似した線維増生と肥厚といった所見を観察しており、拘縮と老化は、慢性炎症概念により連続的なものとして理解できる可能性が考えられた。さらには、近年、変形性関節症と慢性炎症の関連性についての研究が報告されており、もう一つのメジャーな関節疾患であるところの関節リウマチともあわせ、関節疾患の病態を統一的に理解する可能性についても視野に入ってきたと考えられる。これらもまた、CD34陽性細胞に隣接しない単独出現するα-SMA陽性細胞を筋線維芽細胞とみなすことにより、その出現数を指標とした動物実験の進展により、さらなる知見が得られることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染の拡大による影響で、当初計画をしていた実験などの遅延が発生し、383587円の次年度使用額が発生した。 次年度使用額と翌年度請求額を合算し、実験用ラット、各種抗体及び可動域運動器具等に使用する予定である。
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