研究課題/領域番号 |
19K11412
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
細 正博 金沢大学, 保健学系, 教授 (20219182)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 拘縮 / 慢性炎症 / 老化 / 創傷治癒 / 筋線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
前年に引き続きラット膝関節拘縮モデルを用い、関節可動域運動による訓練を加えることで関節可動域の変化と関節包の筋線維芽細胞 myofibroblasts 数の変化について検討した。筋線維芽細胞の同定にはα-SMA免役染色を行ったが、やはりα-SMA陽性となる血管周皮細胞 pericytes や血管平滑筋の排除のため、同時にCD34免疫染色を併用して血管および血管内皮細胞を同定し、これに隣接するα-SMA陽性細胞は血管周皮細胞とすることで、より正確な筋線維芽細胞の同定に努めた。 18匹のWister系雄性ラットは、コントロール群、固定群、運動群の3群に6匹ずつ無作為に分けた。ラットは8週齢のものを購入して1週間の馴化の後、9週齢から実験に用いた。固定化群と運動群のラットの右後肢の膝関節を独自に開発した手技により120度屈曲固定し、運動群には関節固定化の翌日から可動域運動を追加を開始した。可動域運動は1Nの力で尾側に5分間の伸展運動を行った。2週間の実験期間終了後、膝関節の伸展制限の度合いを測定した後、膝関節を採取した。関節包後部を観察するために、HE染色とCD34、α-SMA免疫染色を行った。CD34陽性細胞に隣接せず単独で出現するα-SMA陽性細胞を筋線維芽細胞としてその数を計数した。 膝関節伸展制限にはすべての群間で有意差があり、α-SMA陽性細胞数は対照群と比較して固定化群で有意に増加していた。これらの結果から、関節可動域運動が関節包の線維化を引き起こす筋線維芽細胞数の増加を抑制でき、ひいては関節固定により惹起される関節包の線維化の進展を抑制できる可能性が示唆された。本研究は、論文回して現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関節疾患の研究は、一部の疾患(関節リウマチ等)を除いてはかばかしい伸展が見られないのが現状である。とりわけ拘縮の基礎的な研究は最も関連するであろう整形外科学のみならず、内科学や解剖学などの他の分野でもまったくと言って良いほど研究が行われておらず、その研究は理学療法学の分野にこそ求められていると考えられる。 本研究では、筋線維芽細胞の同定をα-SMA免疫染色により行った。その際、やはりα-SMA陽性となる血管周皮細胞や血管平滑筋細胞が毛細血管や細小血管に隣接することに着目し、血管内皮細胞に選択的に陽性となるCD34免疫染色を併用することで、血管に隣接するα-SMA陽性細胞を血管周皮細胞および血管平滑筋細胞と判定し除外することで、これに隣接しない単独で出現するα-SMA陽性細胞を筋線維芽細胞としてより正確に同定することで、関節拘縮時における筋線維芽細胞の動向を明らかにし、関節可動域運動が関節包内での筋線維芽細胞増生を抑制する可能性があり、不動による局所環境の変化を抑制する効果があることが示唆された。 筋線維芽細胞は創傷治癒機転により誘導されることで知られており、肉芽組織などに多く出現するほか、様々な疾患における線維化に関与することが知られている。関節拘縮とこれに対する関節運動による介入で筋線維芽細胞の出現に有意の変化が見られたことから、拘縮で見られる関節構成体の病理組織学的変化は、関節拘縮時に見られる病態変化は、創傷治癒の一表現として理解することが可能であり、なおかつ広義の慢性炎症の疾患概念に含まれ得るのではないかとする仮説の妥当性について検討するための、一つのエビデンスを提供できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在進捗中の実験により、高齢健常ラットの関節構成体にも、拘縮時の関節構成体の変化と類似した線維増生と肥厚といった所見を観察しており、一方で高齢健常ラットでは、筋線維芽細胞数が有意に減少しているというデータが蓄積されつつある(論文投稿中)。拘縮と老化は慢性炎症概念により連続的なものとして理解できる可能性が考えられると同時に、筋線維芽細胞の関与に何らかの違いがある可能性が考えられる。、また変形性関節症と慢性炎症の関連性についての研究も近年報告されており、もう一つのメジャーな関節疾患であるところの関節リウマチともあわせ、関節疾患の病態を統一的に理解する可能性についても視野に入ってきたと考えられる。これらもまた、CD34陽性細胞に隣接しない単独出現するα-SMA陽性細胞を筋線維芽細胞とみなすことにより、その出現数を指標とした動物実験の進展により、さらなる知見が得られることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
新馬他コロナウイルス感染への対応等で、当初計画していた実験などに遅延が発生したため、論文執筆、投稿が次年度に繰り越さざるを得なくなった。 140785円の次年度使用額は、現在投稿中の論文掲載料に充当する予定である。
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