本年度は,国際学会および国内学会での研究成果報告,追加データの収集と障害例のデータを追加して検討を行った. 追加データ収集では,両上肢の到達運動を対象に,健常成人データの追加計測を実施した.既計測データと合わせて分析を行い,到達時の上肢全体のシナジーの特徴がデータを追加しても変わらないことを確認した.障害例の検討では,橈骨神経麻痺患者と手根管症候群患者の追加データ収集を行った.橈骨神経麻痺患者では,運動シナジーは術後経過とともに変化し,長期的には健常成人と同様のパターンに改善することが分かった.手根管症候群患者では,障害の重症度がシナジーに反映されるかを検討するため,母指運動のシナジー解析を行った.手根管症候群の重度例では中程度例に比べシナジーが異なり,母指の関節間協調性が変化していることが分かった.これらは投稿準備中である. 本研究は到達-把持動作および日常生活動作時の上肢全体のシナジーの特徴を明らかにすること,および障害例の上肢運動シナジーを探索することを目的とした.到達-把持動作では,肩甲帯,肩関節,肘・前腕,手指関節にまとまった運動シナジーがあり,筋シナジーも同様の傾向を示し,到達-把持動作のシナジーは関節ごとに存在することが特徴であると考えられる.日常生活動作でも,到達-把持動作と同様に,肩甲帯,肩関節,肘・前腕の関節でまとまるシナジーがあった.また,日常生活動作を行う空間に応じてシナジーの制御が異なっているようであった.障害例では,障害上肢のシナジーは健常成人と異なり障害の特徴を反映し,回復過程の経過観察に利用できる可能性があると考えられる.以上より,上肢運動のシナジーを捉えることで,新たなリハビリテーション技術の発展に貢献すると思われる.
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