研究実績の概要 |
徒手療法では、筋緊張緩和、組織血流改善などの身体的効果以外に不安感減少やリラクセーションなどの精神的効果も臨床上重要な知見として経験する。しかし、その脳内機序は明らかではない。本研究代表者は、徒手療法の中でも特に触刺激に着目し、触刺激が情動機能に与える影響を検討した。これまでに、ラットを特別な肢位に保った状態で触刺激を行うと快情動中枢である側坐核のドーパミン放出が増え(Shimoju et al., 2018)、快情動の指標である50kHz超音波発声が大量に誘発されることを明らかにした(Shimoju et al., 2019)。本研究代表者の開発した触刺激法では、従来の報告にはない新たな超音波発声のサブタイプがみられたことから、これまでに発見されていない快情動状態を惹起する可能性が考えられる。本研究では、この触刺激法による50kHz超音波発声のサブタイプが中脳辺縁系ドーパミン神経系を介して生じるか、この触刺激が情動・覚醒と関わる脳神経活動の変化をもたらすか、快情動関連行動を誘発するかを明らかにし、触刺激が情動機能に与える影響を解明することを目的とする。 令和2年度では、前庭刺激や軽いタッチよりも皮膚へのストロークを伴う触刺激が50kHz超音波発声の誘発にもっとも効果的であることを英文誌に報告した(Shimoju et al., 2020)。さらに、触刺激誘発性50kHz超音波発声のサブタイプが中脳辺縁系ドーパミン神経系を介することを明らかにした。触刺激時の脳神経活動の変化を明らかにするために脳波のスペクトル解析に着手した。触刺激では刺激後の陽性情動関連行動(歩行、リアリング)が増加し、恐怖・不安関連行動(フリージング)がみられないことを確認した。令和2年度の以上の結果の一部を論文として発表するとともに(Shimoju et al., 2021)、国内学会にて発表した。
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