研究課題/領域番号 |
19K11428
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研究機関 | 東京工芸大学 |
研究代表者 |
辛 徳 東京工芸大学, 工学部, 准教授 (00431982)
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研究分担者 |
姜 有宣 東京工芸大学, 工学部, 教授 (10582893)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 電動義手 / 解剖学的な再現モデル |
研究実績の概要 |
従来の電動義手では人間の骨格系と異なるリンク構造を持っているのでシリコン皮膚を被せるだけでは皮膚の歪みが生じてしまい、患者が敬遠する問題点がある。本研究では、身体障がい者が物体とのインタラクションなど日常生活における殆どの作業を行うことができ、外観上にも本物の手と同様な多自由度電動義手の開発を行っている。 令和元年度には解剖学に基づいて指骨と関節を新しく設計し、3Dプリンターを用いて製作を行った。製作した電動義手は母指に4自由度、他の4指に3自由度、計16自由度を持っている。3Dスキャンされた骨モデルは日本人男性の標準サイズの約1.1倍(身長約190㎝男性)の大きさで設計した。 さらに、解剖学に基づいて腱鞘や腱と靭帯の再現を行った。手の腱鞘は、一連の弾性プーリとして機能し、腱は筋肉から関節に力を伝達する役割をする。靭帯は、2つの隣接する骨の両側に挿入された強靭な結合組織であるが関節を安定させる程度の材料が見つからなかったので骨の設計で可動範囲を制限した。さらに、関節の両側にある側副靭帯や掌側板の構造を弾力と強度のあるゴム糸やゴムシードを用いて固定した。それによりリラックス状態のような自然屈曲状態を保持することが可能になった。各骨や関節に付けた編み形状の腱は義手の手首に取り付けた6個のアクチュエータを用いて制御を行った。モーションキャプチャによる義手の把握性能を調べた結果、TVリモコンやペットボトル(500グラム)や鍵など20種類の物体の把持に成功した。その動画を研究室のホームページ(http://wrlab.t-kougei.ac.jp/)に公開している。さらに、シリコン皮膚を被せた可動範囲で動作させ様子を確認した結果、例えば拳を握る場合でも自然に骨が見えるなど違和感がない電動義手が作られた。その結果を国際会議(CcS2020)と国内会議(日本神経科学大会)に投稿している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和元年度には外観の装飾性が良い多自由度を持つ電動義手の製作が目標であった。現在のプロトタイプの電動義手は母指を除く4指に各3自由度(MP、PIP、DIP)、母指に4自由度(MCP2、PIP、DIP)、合計16自由度を有している。現在では6個のアクチュエータを用いて制御しているが小型で高トルクを持つアクチュエータを前腕の橈骨,尺骨に埋めることを想定し、設計を行っている。さらに、2自由度を持つ手首関節の設計も行っている。2種類の手首関節を設計し、1/4スケイルで製作を行い比較した結果、可動範囲が人間とほぼ同程度(尺屈30°撓屈20°掌屈60°背屈40°)である球関節モデルを採択した。さらに、4つの腱を通す手根骨も設計している。今後は各モデルを改良し,実際に手首を自由にした際の動きが再現できるように改善を行う予定である。 義手の制御を目的として表面筋電信号を用いたニューラルネットワークによる制御システムを構築した。これにより日常生活に重要な4種類の動作(握力把握、精密把持、側面把握、リラックス)に対して平均90.8%の動作識別率となった。この結果は実用識別率(90%以上)に到達している。しかし、筋電義手を制御する際、動作を誤認識してしまうと非常に危険となる場合があり、認識精度を向上する必要がある。そのため、深層学習の勉強のため第22回 画像の認識・理解シンポジウム研究会に参加した。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度では外観の装飾性が良い多自由度を持つ電動義手を製作し、日常生活に重要な4種類の限られたパターン動作に高い認識率で成功した。 今後は日常生活に不便なく使える広い可動性を持ち、さらに、前腕の部分も人間と同程度のサイズを持つ多自由度義手を製作する予定である。さらに、小型アクチュエータを前腕の橈骨,尺骨に埋める設計も行い多自由度電動義手を完成する予定である。 しかし、物体とのインタラクションが可能になるには表面筋電信号から関節の粘弾性情報を習得しなければならない。そこで、表面筋電信号から関節トルクと弾性を予測する数式モデルを改善し、筋張力と弾性を計算できるように研究を進める。それが可能になれば日常生活に必要な殆どの動作と物体とのインタラクションが可能な十分な把持力を提供する新たな電動義手の基盤技術の構築が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
電動義手の開発に表面筋電センサが必要であるが皮膚に長時間付けるため柔らかい電極を開発している。その材料の入手がコロナの影響で入手困難になりその分使用出来なかった。
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