研究課題/領域番号 |
19K11433
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
安田 俊広 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (50323184)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨格筋 / PGC-1α / ミトコンドリア / エピネフリン / CREB |
研究実績の概要 |
骨格筋のミトコンドリアの増加は,持久的能力を向上させるだけでなく,脂質代謝の亢進など代謝疾患の予防にも関与している.しかし,ミトコンドリアの増加を引き起こすメカニズムについては不明な点が多い.ミトコンドリアの増減には骨格筋の収縮活動という局所因子と交感神経活動の亢進といった体液性因子の2つ が関与すると考えられている.これまでの先行研究の結果から考えると,これら2つの因子が相互に関係しあってミトコンドリアの増減を引き起こしている可能性があるがその関与の仕方については不明な点が多い.そこで本研究は,様々な条件下での2つの因子を検討することで骨格筋のミトコンドリア制御のメカニズムの解明を目指している. 令和元年度は,ラットにノルエピネフリンを注射した6時間後と18時間後に骨格筋と褐色脂肪細胞を摘出しミトコンドリア生合成に関係するタンパクを測定・評価した.測定したタンパク質は,PGC-1α,UCP-1 (褐色脂肪細胞), UCP-3 (骨格筋),クエン酸合成酵素である.その結果,ノルエピネフリン注射6時間後にお いて褐色脂肪細胞・骨格筋共にPGC-1α,UCP-1の変化は観察されなかった.一方,注射18時間後においては褐色脂肪細胞のPGC-1αが増加したが,骨格筋では変化が見られなかった.この結果は交感神経活動の亢進は褐色脂肪細胞のミトコンドリアを増加させるが,骨格筋ではその作用がないことを示唆している.しかし,ノルエピネフリンが十分作用していない事例が見られたため,引き続き確認する必要があった. 令和2年度は上記結果を確認する実験を中心に行った.ノルエピネフリンを注射したラットの筋を摘出しサイクリックAMP応答配列結合タンパク質(CREB)とそのリン酸化を確認する作業を行った.その結果エピネフリン作用の程度にばらつきがあり投与量を調整する必要があることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画から予算が減額されたため,m-RNAの測定を行う設備・試薬の購入が出来なかった.そのため,令和元年度はタンパクの測定のみとなった.他大学との施設共用の可能性を検討していたが,R2年度は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため大学間の交流が著しく制限されたため滞っている. また,R2はエピネフリンの投与量やタイミングを確認する実験に多くの時間を費やしたため,当初の予定であった水泳運動実験に至らなかった.上記の実験についてはR3年度に行う予定である
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に測定に至らなかったノルエピネフリン注射後の骨格筋と褐色脂肪細胞のミトコンドリア新生に関係するタンパクの測定を行い,学会発表・論文執筆の準備を行う.また,予定していた下記2つの実験に着手する <実験2>ミトコンドリアの増加モデルとして水泳運動を用いる.水泳運動は先行研究にしたがい深さ50cmの水槽に,ラット1匹あたりの平均表面積が170cm2になるよう同時に泳がせる.水温は35°Cとする.3時間の水泳を15分の休憩をはさんで2回,計6時間の水泳運動を5日間実施する.水泳運動に先立ち,実験群のラット (8匹)には0.4 mg/kg量のプロプラノロール(β2遮断薬)を1日に1回皮下注射する.対象群のラット(8匹)は生理食塩水を注射する.5日目の水泳トレーニン グ終了48時間後に前肢骨格筋のEpitrochlearis (EPI) を摘出し,実験1と同様,ウェスタンブロッティングで目的タンパク質の定量を行う.測定するタンパク 質はPGC-1αおよびミトコンドリア関連タンパク(Citrate Synthaseなど)とする. <実験3> ラット10匹を用いる.体液性因子を同一にしながら異なる局所筋活動影響を観察することを目的とした不活動のモデルとしてラットの片脚足関節のギプス固定を行う.ギプス固定3週間後に両脚のヒラメ筋と前頸骨筋を摘出し,非固定脚とギブス固定脚を比較する.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者の所属学部(学類)で実験動物の飼育が出来なかったため,他学部(学類)の動物飼育室の一角を間借りすることになり,その手続きのため初年度の実験着手が遅れた影響が当該年度まで続いた.また,当初の研究計画から大幅な減額(2/3)になったため,研究計画の大幅な練り直しが必要となった.m-RNAの測定の可能性を探ったが,結果的に今年度は断念しタンパクのみの測定となった. また,他大学に行って実験や研究成果の議論を予定していたが,新型コロナウイルスの感染拡大防止のため旅費をまったく使用しなかったため,残額が出た.
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