骨格筋のミトコンドリアの増加は,持久的能力を向上させるだけでなく,脂質代謝の亢進など代謝疾患の予防にも関与している.しかし,ミトコンドリアの増加を引き起こすメカニズムについては不明な点が多い.本研究は骨格筋の収縮活動という局所因子と交感神経活動の亢進といった体液性因子の2 つがどのようにミトコンドリアの増減に関与しているのかについて検討することを目的とした.まずラットにノルエピネフリンを注射し,骨格筋と褐色脂肪細胞を摘出しミトコンドリア生合成に関係するタンパクを測定・ 評価した.測定したタンパク質は,PGC-1α,UCP-1 (褐色脂肪細胞), UCP-3 (骨格筋)などである.その結果,ノルエピネフリン注射により褐色脂肪細胞のPGC-1αが増加したが,骨格筋では変化が見られず,交感神経活動の亢進は褐色脂肪細胞のミトコンドリアを増加させるが,骨格筋ではその作用がないか極めて弱いことが分かった. 上記の結果を受けて,次にミトコンドリア増加モデルとして水泳運動による体液性因子の影響について検討した.ラットにプロプラノロール(ベータ阻害剤)を注射して水泳運動を5日間行ったところ骨格筋においてPGC-1αの増加が認められた.上記の2つの結果から骨格筋のミトコンドリアの増加には骨格筋の収縮活動が重要であり,体液性因子の関与は少ないものと考えられる. しかしながら上記の結果はサンプル数が少なくまた変化のタイムコースにもバラツキが見られており,より詳細な検討が必要と考えられる.今後はミトコンドリアバイオジェニシスに関与する他のタンパク質やmRNAの測定などが必要である.
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