研究課題/領域番号 |
19K11436
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鍋倉 賢治 筑波大学, 体育系, 教授 (60237584)
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研究分担者 |
中村 和照 中京大学, スポーツ科学部, 准教授 (10613292)
榎本 靖士 筑波大学, 体育系, 准教授 (90379058)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高強度運動 / 脂質代謝 / 血糖 / マラソン / トライアスロン / ガチユル走 / 筋力トレーニング |
研究実績の概要 |
本研究は、長距離走・マラソンのトレーニング法に関する研究である。長距離走パフォーマンスの成否には、エネルギーを生成し供給する能力(最大酸素摂取量など)に加え、エネルギーを節約して走る能力が重要となる。特に莫大なエネルギーを要すマラソンでは、体内に蓄えたエネルギー源(糖質)には限りがあるため、糖を節約しつつ走りきることが重要となる。我々は糖質と並ぶエネルギー源である脂質の代謝に注目している。この点において先行研究では、事前に筋力トレーニングを行なうことで、その後の持続走中の脂質代謝が亢進することを明らかにしている。しかしながら、これらの筋力トレーニングの運動時間は30~40分程度と長時間を要し、実践的な応用が難しい。 そこで、事前に短時間の高強度運動を行ない、その後に持続走を行うトレーニング法を「ガチユル走」と命名し、その生理応答と意義(研究課題Ⅰ)、トレーニング効果(研究課題Ⅲ)を明らかにすること、併せてマラソンパフォーマンスに対する脂質代謝能力の重要性について明らかにする(研究課題Ⅱ)が本研究の目的と3つの課題である。 2021年度には研究課題Ⅰに関連し、脂質代謝が亢進するメカニズムについて検討を加えた。すなわち、脂質酸化量を増やす要因には、1)体内に保持する糖(筋グリコーゲン)の枯渇・低下、2)成長ホルモンの分泌が挙げられる。しかしながら、成長ホルモンの増加が確認できない筋力トレーニングによっても、持続走中のエネルギー代謝が増加し、脂質代謝の高進が確認された。また、事前の高強度走の長さ(運動量)に応じて、持続走中の脂質酸化量がより亢進する関係となり、事前の高強度運動による筋グリコーゲンの低下が脂質代謝を高進させるトリガーになる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の中で、特にヒトを対象とした運動実験の積極的な推進には困難が伴い、全体的に研究が遅れがちである。特に、研究課題ⅡとⅢで重要な指標となるパフォーマンスを評価するためのマラソンレースが全国的にほとんど開催されず中止となった。そのため、パフォーマンスに及ぼす脂質代謝の意義を検討する研究課題Ⅱについては過去のデータの再分析などに着手しているところである。研究課題Ⅲについても同様であり、トレーニング実験の症例データの数が不足しているため、次年度は、ここについても症例数を集める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、これまでに行なってきた実験結果を集積し、研究課題Ⅰについてまとめている。これについては、高強度運動として、0.2㎞~1.5㎞、時間にして30秒から5分程度の全力走運動の他に、同程度のエネルギーを消費すると概算した筋力トレーニングを条件に加えて、包括的に研究を進めている。 また、2022年度にはマラソンレースも徐々に再開されることが期待される。そのため、研究課題Ⅱである最大酸素摂取量、ランニングエコノミー、乳酸性代謝閾値の3要因に、脂質代謝能力を加えた4つの要因とマラソンパフォーマンスの関係を検討し、長距離走における脂質代謝の意義について明らかにしていく予定である。この点について、この2年間、実際のレースがほとんど開催されなかったため、過去に測定したトライアスロン競技者を用いた研究データを再分析し、3要因では説明しきれないトライアスロンにおけるランニングパフォーマンスを、脂質酸化能力を加えることによって、説明率が上がることを確認した。対象としたトライアスロンレースは、オリンピックで採用されている総距離51.5㎞(最終ランの距離は10㎞)の種目であり、総時間が2~3時間に及び、フルマラソンに匹敵するエネルギー消費量を要する運動と考えられる。その最終種目である10㎞ランのパフォーマンスと脂質酸化能力に関係が認められた点は研究課題Ⅱに関連する重要な知見となりえ、この点について引き続き分析を進め論文発表を行なう予定である。 さらに研究課題Ⅲについては、レースがほとんど開催されない中で事例的に症例を集めており、2022年度には症例数を増やし、一定の示唆を得らえるようにまとめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究課題ⅡやⅢに関わる実験・測定が順調に消化できなかった。そのための消耗品や謝金が想定より少なくなった。さらに研究資料収集のため参加予定であった岡山での学会大会(2022年2月)が、直前に急遽オンライン開催になり、学会参加旅費として使用を見込んだ旅費を使わなかった。これらが、残金が大きくなった理由である。 最終年度の2022年度に研究課題ⅡとⅢに関する実験症例を増やし、消耗品費、謝金として研究費を使用する予定である。
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