本研究では、全身運動における協調技能の熟練差を明らかにすること、初心者が協調技能を学習していく過程の仕組み(ダイナミクス)を明らかにすることを目的に研究を実施した。このことは、他者に注意が向けられない初心者と、他者の意図を読み取り自己を調整できる熟練者の違いは何か、初心者がどのように協調技能を習得していくのか、といった疑問に迫ることであった。そのために、当初の研究目的では、個人技能が乏しい初心者の協調技能が、どのように学習していくのか(あるいはしないのか)を検証することを目的としていたが、本研究課題を基課題とする国際共同研究加速基金の採択に伴い、協調技能を促進する視覚情報場を検討することを主たる目的とした。本年度は最終年度として、三者の協調行動を対象として実験を実施した。実験課題としては、三者が互いに等しい距離に向かい合って座った状態で、錘の付いたスティックを左右に揺らす、逆さ振り子課題を用いた。実験では、他者との意図的な同期を教示した参加者群と、意図的な同期を教示しない参加者群を対象とした。また、2種類の異なる視覚情報場の条件として、三者が円環状に相互作用する条件と、三者が鎖状に相互作用する条件を実施した。その結果、二種類の参加者群のどちらについても、また視覚情報場のいずれの条件でも、三者が完全に同じ方向で同期するパターンよりも、三者のうち1組の二者が同位相で同期して、残りの2組が逆位相で同期するパターンが多く確かめられた。このことは、三者関係においては、三者の均一な協調よりも、2対1といった非均一な協調の方が、より安定した協調行動を維持できる可能性を示唆している。
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