研究課題/領域番号 |
19K11449
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
和気 秀文 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 教授 (50274957)
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研究分担者 |
グホ サビン お茶の水女子大学, 理学部, 学部教育研究協力員 (30453179)
山中 航 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 助教 (40551479)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高血圧 / 扁桃体 / STAT3 / ストレス / 運動 / siRNA |
研究実績の概要 |
精神的ストレスは高血圧発症を促し、脳卒中や心不全のリスクを高める。従ってストレスコントロールは極めて重要であり、その一手段として定期的な運動を行うことが推奨されている。しかしストレスによる高血圧の発症や運動による予防効果の機序は不明である。ストレス応答に関わる主な脳部位は扁桃体であり、扁桃体は血圧調節機能を有する。申請者は慢性ストレスは扁桃体における転写因子STAT3遺伝子発現を抑制すること、また扁桃体STAT3遺伝子の発現量と血圧値の間に高い相関性があることを明らかにした。本研究はSTAT3の扁桃体内発現局在や血圧調節などの生理機能を明らかにし、ストレスによる高血圧発症と運動による予防効果の機序解明を目指す。2020年度は前年度に引き続きin vivo-jet PEIを用いてsiRNAを扁桃体中心核へ導入し、STAT3発現を可逆的に抑制した際の循環動態をテレメトリーシステムにより測定した。その結果、siRNAの扁桃体中心核導入3日後に安静時血圧が有意に上昇し、心拍数は有意に減少することがわかった。一方、コントロールsiRNAを扁桃体中心核に導入してもこれらの変化は認められなかった。免疫組織化学染色により、STAT3のsiRNA導入はSTAT3タンパク質発現を減少させるが、コントロールsiRNAでは、その発現にほとんど影響を及ぼさないことが確認された。以上より扁桃体STAT3発現は安静時血圧水準を調節しており、ストレスによるその発現低下が血圧上昇を引き起こしていること、運動介入は扁桃体STAT3の発現水準を是正することで、ストレスによる血圧上昇を抑えている可能性が示唆された。またsiRNA導入による心拍数の低下は圧受容器反射による心臓副交感神経の賦活化に依存している可能性が示唆された。以上に加えて、STAT3と共役するNR3C1ついても観察し、扁桃体での発現が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度はsiRNAを用いた生理機能実験を中心に行う研究計画を立てており、その実験を予定通り遂行することができたので、「おおむね順調に進展している」とした。具体的には、STAT3siRNAまたは、コントロールsiRNAを扁桃体へ導入した際の循環動態をテレメトリーシステムを用いて計測したが、令和2年度は統計解析を行うために必要なデータ数を取得することができた。また、STAT3と共役するNr3c1の発現局在や、siRNA導入の有効性を評価する免疫組織化学実験等についても予定通り実施することができた。尚、当初予定していた、自律神経調節機能については、次年度も継続して解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に引き続き、STAT3siRNAまたは、コントロールsiRNAを扁桃体へ導入した際の自律神経調節機能について、テレメトリーシステムを用いて解析する予定である。圧脈波形からの心拍変動解析による交感神経・副交感神経活動指数ならびに自発性圧受容器反射感度を解析する。また、扁桃体STAT3が急性ストレス応答に関与しているかどうか調べるために、STAT3siRNAまたは、コントロールsiRNAを扁桃体へ導入した際の拘束ストレス負荷等に対する循環応答ならびに自律神経調節機能を観察・評価する。さらに、STAT3siRNA導入によるNR3C1等の発現に及ぼす影響についても観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は透明脳標本を用いて免疫組織化学実験を行う予定でいたが、透明脳を作成せずに従来の方法でも標的タンパク質の局在が確認できたこと、また、令和2年度前半はCOVID-19の影響を受け、実験日が減ったことなどにより、次年度使用額が生じた。しかし、これまでの研究成果から派生した実験(免疫組織化学実験や生理機能実験など本研究テーマに直接かかわる実験)も次年度に行う予定であるため、当初予定していた請求額と併せて使用する予定である。
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