• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2020 年度 実施状況報告書

スポーツ医学に於ける全身冷却療法の確立を目指して

研究課題

研究課題/領域番号 19K11459
研究機関東邦大学

研究代表者

額田 均  東邦大学, 医学部, 教授(寄付講座) (60118833)

研究分担者 西野 一三  国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第一部, 部長 (00332388)
後藤 一成  立命館大学, スポーツ健康科学部, 教授 (60508258)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードスポーツ医学 / 全身冷却療法 / 運動後筋肉痛 / 血清脂質 / ラット
研究実績の概要

全身冷却療法(whole-body cryotherapy, 以下 WBC)は、-100℃から-120℃の超低温環境を作り その冷却空間に入る全身の冷却療法である。近年WBCが運動後の筋肉痛・筋損傷の回復を促進させるという臨床研究が発表され、国内外のスポーツ大会、スポーツ科学センター、各種スポーツ団体等でWBC が行われている。またWBC は脂質代謝、免疫機能の改善など医療・美容分野でも使われている。しかし、WBC についての基礎的研究はなく、その作用機序は未だ解明されておらず、WBC の適切な使用のガイドラインもない。本研究は WBC により惹起される生理的身体反応について、また運動誘発性筋損傷に対するWBCの効果についてラットを用いて生理学的、病理学的、分子病態学的に検討し、WBCの作用機序、適応と効果、適正な使用方法、副作用等の確立を目指すことである。
その第一歩としてラットでのWBC の方法を確立し、更に1)WBC自体が身体に与える生理的影響について、2) WBCの運動誘発性筋損傷に対する効果について検討する。このため、本実験用にラット用WBC装置を開発した((株)前川製作所)。液体窒素を冷却庫壁内に循環させ、冷却空気を用いて庫内の空気を室温から-100℃まで数分間で下げ、冷却温度の調節を可能とした。
既にこの装置を用いてラットWBCの方法を確立し、今年度は、WBCによる生理的身体反応についての検討と、ラット用トレッドミルを用いて運動後遅延性筋損傷を惹起する走行方法の確立をする。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ラットのWBC方法については、ラット用WBC装置を用いて、冷却温度をマイナス100℃前後とし、冷却時間は60秒間冷却を3分間隔で3回繰り返す。筋肉(大腿四頭筋)温度が3-4℃、直腸温が5-6℃低下し、血圧、脈拍は3回目の冷却直後4-5分で冷却前のレベルに回復する。
WBCによる生理的反応としては、WBC直後に血清CKがWBC前に比し有意に上昇した。白血球数、AST(GOT)、 ALT(GPT)、LD、ALPにはWBC前後で有意な変化は認めない。この血清CKの変化はCK-MM型であり、WBC直後に有意に上昇し(WBC前:3.1±1.0%、n=16; WBC直後:13.9±7.2%、n=11、p=0.001)、24時間後には低下しWBC直前と有意差を認めない。
今年度は更に、複数回にわたりWBCを繰り返した結果、このWBC直後のCK上昇が2回または3回目以降のWBC直後には認められなかった。また1回目のWBC直後には血清カテコラミンの有意な上昇を認めたが、これらの上昇も2回目以降のWBC直後にはみられなかった。また長趾伸筋、ヒラメ筋、腓腹筋、大腿四頭筋の組織学的検査では異常を認めなかった。これらの結果より、1回目のWBC直後に認めたCK-MM型の上昇は、2回目以降のWBCでは認めず、環境的ストレスによると思われる。このためヒトにおいても複数回のWBCがより効果があると思われる。
一方、ラットの運動負荷については、ラット用トレッドミル(TMW-2、メルクエスト)を用いた。速度20m/minで30分間の平地走行後にはCKの上昇はなく、マイナス15度の下り坂走行直後に軽度のCK上昇(主にCK-MM型)を認めた。しかし、病理学的変化がはっきりせず、WBCの効果を検討するには軽微であることから、他の方法で検討する必要がある。

今後の研究の推進方策

課題1:WBCによる生理的身体反応:
WBCは運動後の回復促進の他に、脂質代謝の改善など医療・美容分野でも使われているが、その根拠は示されていない。
本年度は、WBCの脂質代謝に対する影響について、ラットにWBCを繰り返し行い血清脂質、体重の変化について検討した。WBCを週2回、5週間で10回繰り返し、WBC直前と24時間後に採血し、中性脂肪(TG)、総コレステロール、LDL/HDL-コレステロール、血糖、遊離脂肪酸について検討した。その結果、1回目のWBC24時間後にTGが有意に低下した:WBC群226±33から167±25mg/dl、対照群222±24から264±42mg/dl。WBC群でのTG低下は5週間継続して認められた。その他には有意な変化はみられなかったが、WBC群では対照群に比し体重増加の抑制傾向を認めた。このようにWBCはTGを低下させるが、今後このTG低下の機序および脂質異常症に対するWBCの治療効果についての検討が必要である。
課題2:WBCの運動誘発性筋損傷に対する効果:
ラットでは運動誘発性筋損傷の惹起は困難である。ラットを使用するため筋肉痛の評価が不可能であり、WBCの効果を形態学的に証明する必要があり、筋損傷を起こす方法について検討中である。現時点では塩酸ブピバカインを用いての筋損傷モデルを予定している。

次年度使用額が生じた理由

今年度は全身冷却療法の生理的反応については実験は順調に進んだ。しかし筋損傷については、そのモデルがまだ確立せず、国立精神・神経センターとの筋病理についてはまだ共同研究が進んでいない。またコロナ禍のため、国立精神・神経センターへの出張が出来ず、筋組織の組織化学的染色方法がまだ確立していない。来年度にはこの課題により多くの時間を費やす予定である。使用計画については、試薬の購入、検査・解析費用、また論文作成費として使用する予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2020

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Efficacy of nonviral gene transfer of human hepatocyte growth factor (HGF) against ischemic-reperfusion nerve injury in rats2020

    • 著者名/発表者名
      Tsuchihara Toyokazu、Nukada Hitoshi、Nakanishi Kuniaki、Morishita Ryuichi、Amako Masatoshi、Arino Hiroshi、Nemoto Koichi、Chiba Kazuhiro
    • 雑誌名

      PLOS ONE

      巻: 15 ページ: e0237156~156

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0237156

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Pathological Findings of Hourglass-Like Constriction in Spontaneous Posterior Interosseous Nerve Palsy2020

    • 著者名/発表者名
      Komatsu Masatoshi、Nukada Hitoshi、Hayashi Masanori、Ochi Kensuke、Yamazaki Hiroshi、Kato Hiroyuki
    • 雑誌名

      The Journal of Hand Surgery

      巻: 45 ページ: 990.e1~990.e6

    • DOI

      10.1016/j.jhsa.2019.12.011

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 糖尿病性多発神経障害-血管障害の立場から2020

    • 著者名/発表者名
      額田 均
    • 雑誌名

      脳神経内多発神経障害多発神経障害

      巻: 93 ページ: 746~753

  • [学会発表] ラットでの全身冷却療法直後のCK-MM型上昇について2020

    • 著者名/発表者名
      堀田亮太郎、額田 均、神村 岳、後藤一成
    • 学会等名
      第74回日本体力医学会大会
  • [学会発表] 神経科学で人間を見つめる:加齢と末梢神経2020

    • 著者名/発表者名
      額田 均
    • 学会等名
      第39回東邦大学生命科学シンポシウム
    • 招待講演

URL: 

公開日: 2021-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi