本研究では,障害物回避のための歩行動作修正の方略を理解するために,障害物回避行動を測定できるバーチャルリアリティ(VR)システムを開発してきた。この開発に3年という想定をはるかに超える時間を要したため,当初の研究計画をそのまま実行することが困難となった。このため本年度は最終年度として,段差またぎ動作に関する2つの実験を行い,もともと衝突率が高い後続脚について,衝突率の改善に寄与する要因を明らかにすることを目的とした。第1実験では,本研究で構築したVR環境下での跨ぎ動作が実環境と比べてどの程度類似性があるのかを検証した。参加者は3m前方の段差に対して右脚を先導脚,左足を後続脚として跨いだ。段差の高さは,下肢長(床から大転子まで)の20%,30%の2種類であった。実験の結果,VRシステムと実環境において一定の類似性がある結果が得られた。特に,本研究において重要となる後続脚のクリアランスや歩行速度においては,VR環境において著しく変化することがないことを確認した。以上のことから,本研究にて開発したVRシステムは,障害物回避のための歩行動作修正の方略を理解するために,一定の有益性をもつことを確認できた。第2実験では,段差をまたいだ直後の先導脚の着地位置を操作することで,後続脚の衝突率が改善できるかを検討した。第1実験より,先導脚はおおむね段差から20㎝先に着地することが確認された。これに基づき第2実験では,4つの条件(段差から10cm,20cm,40cm,着地位置の操作なし)で段差またぎをしてもらった。その結果,段差から10cmの位置に着地させることで,後続脚の衝突率を軽減できることがわかった。この結果から,先導脚は視覚的にも制御可能であり,も衝突率の低いことから,段差ギリギリの位置に着地させることで,後続脚の衝突率を軽減できる可能性を示唆した。
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