研究課題/領域番号 |
19K11471
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研究機関 | 了徳寺大学 |
研究代表者 |
越田 専太郎 了徳寺大学, 健康科学部, 教授 (60532637)
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研究分担者 |
石井 孝法 了徳寺大学, 健康科学部, 教授 (60735041)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 頭部外傷予防 / 柔道 / 慣性センサ |
研究実績の概要 |
柔道において、頭部外傷の多くは実際の稽古(自由練習)時に生じていることから、競技場面での頭部衝撃分析は、頭部外傷予防を考える上で極めて重要である。そこで、2021年度は、男子大学柔道選手3名を対象に、実際の柔道稽古(自由練習)時に投げられた際に頭部に加わる衝撃の大きさおよび頻度の定量化を試みた。 測定は、対象が所属する柔道場において2021年11月中旬から12月中旬に実施した。自由練習時に投げられた場面は各対象について録画した映像より同定した。また、口腔内に装着したマウスガード型慣性センサにより得られた頭部に加わる並進加速度および角加速度を頭部衝撃の指標とした。映像データと衝撃データ各々の時刻を同期し、実際の柔道稽古時に投げられた際に頭部に加わる衝撃の大きさおよび出現頻度について分析した。 本測定で対象とした自由練習の延べ本数および練習時間は、各々96本および327分(自由練習1本あたり3分または4分)であった。稽古時の映像分析の結果から74の投げられた場面が抽出され、並進加速度が閾値である10gを超えた頭部衝撃は、13場面で認められた(17.6%)。つまり、本対象においては投げられた場面の80%以上で、頭部への衝撃は10gを超えていないことが示された。また、自由練習1本あたりの頭部衝撃の出現率は14.6%であった。一方で、頭部衝撃における合成並進加速度の中央値(最大値-最小値)は、19.1g(11.8 - 40.9)、合成角加速度の中央値(最大値-最小値)は、1333.7rad/s2(392.2 - 4119.1)であった。本研究の結果からは、柔道において頭部衝撃の頻度は他のスポーツと比較して高いとは言えない。2022年度では対象数をおよび測定期間を増やして分析するとともに、衝撃の大きさや閾値を超える衝撃の出現率に対して影響を与える内的および外的要因の探索を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度も2020年度に引き続いて新型コロナウイルス感染症による影響は継続し、首都圏において緊急事態宣言および新型コロナウイルスまん延防止等重点措置が長期間に渡り発令された。本研究の目的は「実際の柔道場面において」投げられた際に頭部に加わる衝撃を定量化するというものであるため、柔道の競技活動が行われていることが研究を進める上での前提条件となる。 特に新型コロナ禍においては柔道の競技団体の多くで活動が長期間休止となった。このことが本研究計画が遅延している主原因であり、2021年度においても前年度と同様に継続的な測定を実施することが難しい状況であった。 さらに、本研究で使用するマウスガード内蔵型慣性センサは、対象の口腔内の健康および測定精度の観点から口腔内の光学印象を撮像し、対象個々の口腔形態にあわせて作成している。長期間に渡る活動休止の結果、数人の対象が卒業準備などにより長期休止期間後に柔道を継続せず、マウスガード型センサを準備した対象を測定することができない状況が生じた。このことも、十分な対象数を確保できなかったことに間接的に影響している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は測定対象および期間を十分に確保できる体制を再構築する。さらに、新型コロナ感染症の動向により短期間の測定期間が確保できない場合に備えて、他施設や団体との協力関係をさらに広げて、短期間であっても十分な測定対象数の確保が可能となる体制構築を試みる。 2022年度は、研究計画で示した衝撃の大きさや閾値を超える衝撃の出現率に対して影響を与える内的および外的要因の探索も試みる。具体的には対象の柔道レベルや過去の頭部外傷経験や頚部筋力といった個体要因との関連性について検討する。さらに、疫学研究は大外刈といった後方に投げる技で投げられた際に頭部外傷発生のリスクが高くなることを示している。また、実験室で実施されたバイオメカニクス的研究の結果も、特に大外刈で頭部衝撃の大きさが高まることを示唆している。これらから、実際の柔道競技場面でみられる技と頭部衝撃の大きさおよび閾値を超える頭部衝撃の出現率の関連についても合わせて検討を行う。これらのエビデンスは柔道における頭部外傷予防対策を構築する上で重要であると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、新型コロナ感染症拡大の影響を受けて、柔道の競技団体の多くで活動が長期間休止となった。そのため、本研究計画が遅延している。来年度は測定に向けた1)対象への謝礼、2)測定機器の追加購入、3)学会発表のための旅費に当該助成金を使用することを計画している。
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