これまでの柔道の頭部外傷に関するバイオメカニクス的研究は、大外刈で投げられることが頭部外傷リスクを高めることを示唆している。しかしながら、これは実験室での測定により得られた結果を基にしており、実際の柔道場面を反映しているかは不明である。本研究は、柔道の自由練習時に加わる頭部衝撃の大きさや頻度を定量化し、その実態を明らかにすることを目的とした。対象は、A大学柔道部に所属する男子大学柔道選手4名およびB大学女子柔道選手4名であった。自由練習時に口腔内にマウスガード型慣性センサを装着してもらい、頭部並進合成加速度を算出した。頭部衝撃の閾値は合成加速度8g以上と設定した。また、自由練習時の映像データから投技の局面を同定し、頭部衝撃データとの同期を行った。研究期間に計測したセッションで、対象が投げられた555場面を同定した。このうち、合成加速度8g以上の頭部衝撃は約11%観察された。頭部衝撃の合成加速度の中央値(範囲)は13.5(32.5)gであった。多くの頭部衝撃は、15g以下の比較的低い値を示していた。また、大外刈は内股、背負投に次いで3番目に多く観察された投技であったが、8g以上の頭部衝撃が加わったのはうち2%以下であった。大外刈は比較的に頻繁に用いられる技であるものの、柔道熟練者においては実際に頭部衝撃が加わる割合は低いことが示唆される。先行研究においては、柔道で投げられること、特に大外刈で投げられる場面で頭部外傷発生リスクが高いことが示されている。ただし、本研究では、一定以上の柔道経験を有する対象において、大外刈による投技が他の技と比較して頭部外傷リスクが高くなることは示されなかった。
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