研究実績の概要 |
アスリートの中には、受傷部位が治癒していると診断されても、痛みを訴え続ける慢性疼痛を抱えるアスリートが非常に多い。しかしながら、その原因については全く明らかになっていない。そこで、本研究では慢性疼痛を訴えるアスリートの痛みの原因を明らかにすることを目的とした。実験1では、北信越地区に所属する大学生アスリートに対して、痛みに対する選択的注意をPVAQという質問紙を用いて慢性疼痛のアスリートの心理学的傾向を調査し、さらに実験2では本学に所属する慢性疼痛アスリートとその他のアスリートの体性感覚誘発電位(SEP)と皮質内に連発抑制(PPI)という手法を用いて神経科学的傾向を同時に調査した。その結果、心理学的調査においては痛みなし、慢性疼痛群アスリートのPVAQスコアには有意な差を認めなかった。しかしながら、それらの値は今井ら(2009)が報告した健常大学生やRoelofs et al., (2002,2003)が報告した値と比べて高い値であった。このことから、痛みの有無にかかわらずアスリートは痛みに対する選択的注意が高い可能性が示唆された。また、実験2では痛みなし群と慢性疼痛群のSEPとPPIについて比較した。その結果、N20は痛みなし群に比べて慢性疼痛群で有意に低く、PPIは脱抑制傾向を認めた。このことから、慢性疼痛群では痛みなし群に比べて一次体性感覚野の興奮性が低下している可能性と皮質内抑制が低下していることが示唆された。これらの指標を用いることによって慢性疼痛のアスリートを定量的に評価できる可能性を示した。
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