ヒトの体重の約40%を占める骨格筋におけるエネルギー消費は、全身に大きな影響をおよぼす。また骨格筋の遅筋線維率は、好気的代謝能力と深く結びついて制御されており、習慣的な運動などで向上させることができる。このため、遅筋化制御因子は生活習慣病治療薬の創薬標的として期待されている。本研究では新たな遅筋化制御因子としてVgll2に着目し、筋代謝調節にも関与するか否かの検証を、遺伝子改変マウスを用いて行う。具体的には、既に確立された遺伝子欠損マウス(以下、KOマウス)に加えて、筋特異的に過剰発現するマウス(以下、Tgマウス)を新たに作製し、Vgll2の発現量と肥満への耐性との相関を解析するとともに、Vgll2を介した筋代謝調節機構の解明を行う。以上によって、生活習慣病の新規治療法の分子基盤構築を行う。 昨年度までに、KOマウスに対して高脂肪食負荷試験(5週齢から12週間)を行い、体重と体脂肪率を測定した。Tgマウスはファウンダーマウス(F0)を得て、繁殖を開始した。今年度、KOマウスについては、高脂肪食負荷試験の結果を再解析し、体重の増加率を比較した。すると、同じく高脂肪食を与えられた野生型マウスよりも有意に高い数値を示すことが見出された。これは、Vgll2欠損が肥満につながることを示唆している。Tgマウスについては、得られた6匹のF0のうち4匹から次世代のマウスを得ることができた。そこで、Vgll2の発現解析を行ったところ4系統すべてで過剰発現が認められた。また、8週齢から12週齢にかけて体重を測定し、野生型マウスと比較したところ、Tgマウスの一部の系統で有意に低い体重増加率を示すものが見つかった。このことは、Vgll2の過剰発現が肥満を抑制する可能性を示している。 以上の結果は、Vgll2が筋代謝調節にも関与する可能性と、その影響が全身性の表現型として観察しうることを示している。
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