本研究は、抽象表現による口頭での関節角度呈示における関節角度調節の正確性を明らかにし、その際の筋活動および上位中枢の活動を解明することを目的とした。実績として、2020年度までに上肢を対象とした抽象表現での口頭による運動強度呈示下における関節角度の正確性について検証し、位置覚との関係性およびその際の筋活動動態を調べた。対象者には、口頭による抽象表現での関節角度提示をし、各自の主観で角度調節を行うよう指示した。また、試技毎でその関節角度を何度としてイメージしたかを聴取した。その結果、位置覚の精度と抽象表現による角度提示下での関節角度調整の正確性には有意な正の相関関係が認められた。また、抽象表現における「少し」という表現が対象者のイメージを混乱させる可能性が考えられた。さらに筋活動計測の結果から、対象者によって調節戦略が異なり、主動筋優位かあるいは同時収縮の程度を調節しているのかによって知覚される関節角度の精度が異なる可能性が考えられた。2021年度は前年度までの計測を下肢にて実施した。その結果、上肢で得られた結果とは異なり、位置覚と関節角度調節の正確性との関係性は認められなかった。一方で、筋活動様相と関節角度の知覚精度には関係性が認められる傾向が確認された。2022年度は、これまでの結果を基に上肢を対象に皮質脊髄路の興奮性について調べることとした。「少し」という表現が関節角度調節を困難にする可能性が示唆されていたため、当該の表現に焦点を絞ることとした。その結果、主導筋並びに拮抗筋の抑制性と興奮性には対象者間でばらつきが見られ、一貫性は見出せなかった。これら一連の結果から、体育、スポーツの指導場面において口頭で関節角度を教示する際、表現方法に留意する必要性があることが考えられた。
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