本研究の目的は,スポーツ選手が試合で実力を発揮したり,プレッシャーに対処したりするために必要な心の強さを高める経験や心の強さの発達メカニズムを明らかにすることである. 前年度までに,勤勉性や同一性などの発達課題を取り上げ,発達課題の達成経験とスポーツ選手の心の強さとの関連を明らかにしてきた.しかし,両者の関連をより明確にするためには,新たな発達課題を取り上げたり,両者の関連を媒介する要因を想定したりする検討が必要と考えられた.そこで本年度は,発達課題としてアタッチメント(他者との情緒的絆)を取り上げ,アタッチメントが練習意欲・計画性を媒介して心の強さに影響するといった関連を仮定し,大学選手を対象者として検討した.分析の結果,男子選手においても女子選手においても,指導者とのアタッチメントが練習意欲・計画性を媒介して心の強さに影響していた.また,男子選手においては,友人とのアタッチメントが直接的にも,練習意欲・計画性を媒介しても心の強さに影響していた.これらのことから,アタッチメントがスポーツ選手の心の強さに関連することや,発達課題の達成と心の強さとの関連を媒介する要因を検討することの有効性が示唆された. 研究期間全体の成果としては,幼少期からの発達課題を順次達成することや自己投入の経験(日常生活や競技生活での努力の経験)がスポーツ選手の心の強さを高めると考えられ,スポーツ選手の心の強さの強化方法に関する示唆が得られた.
|