研究課題/領域番号 |
19K11491
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小笠原 一生 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (70443249)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 姿勢動揺 / 前十字靭帯 / 予防 / 予測 / 加速度センサ / 判別 / 臨床テスト / 機械学習 |
研究実績の概要 |
膝前十字靭帯(ACL)損傷は重篤なスポーツ外傷であり、本邦においても頻度高く発生している。この外傷の予防を効率化するためには、危険な選手を予測する手段の確立が望まれる。 本研究の目的は、個人ごとの姿勢動揺の特徴に基づいたACL損傷リスクの予測基盤を確立させることである。これを達成するため小型ウェアラブル加速度センサによる姿勢動揺の定量化と、ACL損傷の性質を踏まえて最適化された機械学習法を組み合わせた独自手法によってACL損傷者に共通する姿勢動揺の特徴量を前向き的に同定し、個人の危険度を判別できるリスク予測技術を構築する。 当グループではこれまで、「片脚ドロップ着地テスト」(20cmの台から前方に接地した床反力計上に片脚でジャンプ着地し姿勢を保つテスト)時の床反力データから姿勢動揺の特徴量を算出してきたが、本課題では、床反力計を小型ウェアラブル加速度センサに置き換え、利便性を上げることが課題の1つであった。2019年度はこの課題に注力し、およそ60名の若年アスリートを対象に片脚ドロップ着地テストを実施し、床反力データと小型ウェアラブル加速度センサデータの同期計測を実施した。小型ウェアラブル加速度センサは両下腿の脛骨粗面(すねの前面やや膝寄りの隆起部)に安定するように装着した。その際、3つの直交するセンサの感度軸を膝の3軸(屈曲/伸展、内転/外転、内旋/外旋軸)に一致するようにした。 この内、約20名を対象に下腿の前額方向の加速度データを対象として波形データの主成分分析を実施したところ、下腿前額方向の挙動に大きく2つの主成分により支配されることが明らかとなった。そのいずれの主成分が顕著になった場合でも膝は前額方向に大きく揺らぐ挙動を呈した。膝の前額方向の揺らぎは膝の可動域から逸脱するものであり危険とみなされる。ここで得られた知見を用い下肢の挙動の危うさを定量できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
019年度における活動は、若年アスリートを対象とした「片脚ドロップ着地テスト」の床反力データと小型ウェアラブル加速度センサの同時計測を行い、リスク判別用の学習データを多数収集することであった。2019年度を通じておよそ450名のアスリートを対象にテストを実施し、小型ウェアラブル加速度センサのデータは試行錯誤的に収集を試みた。概ね60人程度の解析に耐えうる加速度センサデータを得たため、2019年度の目標は達成できている。12月以降、新型コロナウィルス感染拡大の懸念により予定していたデータ測定が中止となっているが、これ以前にある程度のデータが得られたため、2019年度の進捗においては問題ない。
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今後の研究の推進方策 |
懸念材料は新型コロナウィルスの影響によるデータ測定活動のストップである。2020年度以降に予定された新規な計測が出来ておらず、また、再開の目処も立っていない。そのため、2020年度は既存データの解析を主体とした研究進捗を目指す。2019年度での少人数データを用いた膝部分の動揺のタイプ分別(時間信号の主成分分析による動きのパタンのタイプ分け)により、臨床上、好ましくないとされる膝前額方向の動揺的挙動の評価が可能となった。2020年以降は、この解析結果を膝の不良動揺動作の判別アルゴリズム確立(教師なし学習による不良動作の分類)につなげていく。この理由として、本研究ではデータ取得した選手を2年に渡ってフォローしスポーツ外傷発生数を調査するが、全国的にスポーツ活動が制限されるなかで、スポーツ外傷の発生件数が極端に少なく外傷発生者の教師データの取得が困難である。そのため、リスク予測法の考え方を抜本的に見直し、外傷発生者のデータがなくともリスク判別に資するアルゴリズムを確立できるよう方針変換も含めて検討を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
・コロナ感染症の影響で年度末に予定していたデータ計測等がすべて中止となり、これに関連する出張費、運搬費等に未使用額が生じた。2021年度において状況が改善し次第、予定を再開し研究を実施する。
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