研究課題
本研究では、ひろく性的マイノリティとスポーツに関する現代的課題について社会学的に調査・分析した。その過程で、研究課題においても用いた「LGBTQ」という名称や区分自体が便宜的なものであり、現在のスポーツ(身体そのものを用いた競技パフォーマンス)が多様化するジェンダー/セクシュアリティの現実に対応しきれない原理的な限界をもつことをあきらかにした。なかでも、セクシュアル・マイノリティへの差別・偏見が徐々に克服されてゆく方向にあるスポーツ界において、性別二元性という近代の価値観を身体に根ざして構成してきたスポーツという文化では、ジェンダー差があらためて前景化し、特にスポーツがその成立の過程で想定してこなかったジェンダー区分をわたる/越える存在であるトランスジェンダーやノンバイナリー、あるいはジェンダー・クィアといったジェンダー・マイノリティの選手と競技の間の矛盾が浮き彫りになるまでを考察した。上記の成果は、研究分担者を含めて複数の論文、口頭発表を通じて報告されたことに加え、研究代表者を含めた共著(『スポーツとLGBTQ+:シスジェンダー男性優位文化の周縁』)として公刊された。これは現時点では、現在までの事例の検討の範囲を含めて、スポーツと性的マイノリティについての最も網羅的な研究成果の一つでもある。一方で、当初の研究計画にあった参与観察(ゲイゲームス香港大会)は、現地を巡る情勢の変化により開催が二度にわたって延期され、事実上の中止となったことから実施することができなかった。この点、特にスポーツの有する英米的価値観と東アジアや他の地域の価値観の齟齬という点に関しては、残された課題となった。
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体育の科学
巻: 72巻8号 ページ: 522 527