研究課題/領域番号 |
19K11520
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 達也 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (00314211)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 収縮 / 糖代謝 / AMPキナーゼ / 糖代謝 / カフェイン / ファイトケミカル / メタボローム解析 |
研究実績の概要 |
本年度は、収縮による骨格筋糖輸送の即時的活性化を亢進する既知因子であるカフェインが、収縮時の代謝応答に及ぼす影響について網羅的に検討した。単離したラット滑車上筋をカフェイン存在下(3 mM、30分間)または非存在下でテタヌス収縮を惹起し、対照群を含めて、代謝産物のメタボローム解析を行った。その結果、カフェイン存在下での筋収縮において、ペントースリン酸、核酸合成、脂肪酸酸化、TCA回路、アミノ酸代謝など多数の代謝産物が増加した。以上の結果は、カフェインが筋収縮時のエネルギー代謝を増強させるなど、多様な代謝促進作用を有することを示唆するものである。 また、本年度は、副腎皮質ステロイド(デキサメサゾン)、カテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)、乳酸に着目し、これらの生理活性物質が、収縮による骨格筋糖輸送の即時的活性化の急性的調節因子として作用する可能性について、糖輸送の制御分子である5’-AMP-activated protein kinase (AMPK)に対する影響を解析した。実験方法としては、ラットから単離した滑車上筋をクレブス緩衝液中で生理的濃度高値あるいは非生理的濃度の生理活性物質の存在下または非存在下で30~60分間インキュベートし、その後電気刺激にてテタヌス収縮を惹起した。その結果、AMPKの活性化状態を反映するαサブユニットThr172リン酸化がテタヌス収縮によって顕著に亢進した一方、いずれの生理活性物質の存在下でも、非電気刺激時、刺激時ともに、非存在下に比してAMPKリン酸化の亢進あるいは減弱は認められなかった。以上の結果は、少なくとも上記の生理活性物質については、収縮によって誘導される骨格筋糖輸送の即時的活性化に対する急性的調節作用を有さないない可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度中に筋収縮による骨格筋糖輸送の即時的活性化に影響を与える因子を新規に見出したいと考えていたが、現在までに有意の亢進あるいは減弱作用を持つ因子を見出せていないことから、進捗状況を「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に引き続き、糖輸送の即時的活性化に急性的に影響を与える可能性のある候補因子として、食品や食品に含有される生理活性物質、温熱、寒冷などの環境因子、及び糖代謝に影響を与える可能性が想定される薬剤に関する検討を継続する。研究方法としては、ラット個体あるいは単離した骨格筋に候補因子を負荷し、個体の運動負荷実験や単離筋の電気収縮実験を行って、糖輸送活性の変化及びその主要調節因子であるAMPKの寄与を検討する。増強因子あるいは減弱因子の作用メカニズムにAMPKの関与が示唆された場合には、AMPK-DNマウス(AMPKのdominant negative formを骨格筋特異的に過剰発現させたトランスジェニックマウス)などを用いて、筋収縮時の糖輸送の増強あるいは減弱が抑制されることを検証する。これまでに検討経験のない、あるいは少ない生理活性物質や薬剤を扱う際には、C2C12筋管細胞を用いたスクリーニング系において糖輸送やAMPK活性に対する基礎検討を行った上で動物実験に移行することを基本とする。
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