研究課題/領域番号 |
19K11520
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 達也 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (00314211)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 収縮 / 糖輸送 / AMPキナーゼ / レジスタンストレーニング / 代償性筋肥大 / デヒドロエピアンドロステロン / 脂肪蓄積 |
研究実績の概要 |
骨格筋における糖・脂質・タンパク質代謝の制御に関与する細胞内情報伝達分子である5′AMP-activated protein kinase(AMPK)は、骨格筋内のエネルギーセンサーとしての役割を担うとともに、骨格筋糖輸送を亢進させる作用を有している。本年度は、レジスタンストレーニングを模倣した実験モデルである代償性筋肥大を用いて、代償性筋肥大が糖輸送を亢進させるか、またその亢進はAMPKを媒介しているかを検討した。野生型マウスおよびAMPK活性欠損マウス(AMPK-DNマウス)の下肢筋に対して代償性筋肥大処置を施した後に糖輸送速度(2-deoxy-D-glucose取り込み速度)を測定したところ、代償性筋肥大は野生型マウスの糖輸送速度を有意に亢進させたが、AMPK-DNマウスでは糖輸送速度の亢進が顕著に減弱していた。このことは、AMPKが代償性筋肥大による骨格筋糖代謝活性化に重要な役割を演じているとともに、レジスタンストレーニングが骨格筋糖輸送を増強する因子として作用する可能性が示唆するものである。また本年度は、別の研究として、副腎で産生されるステロイドであり、エストロゲンやアンドロゲンの前駆物質であるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)に着目し、DHEAが脂肪細胞(3T3-L1)においてAMPKの活性化し脂肪蓄積を抑制する可能性を明らかにした。過去に行った研究で、DHEAは骨格筋細胞(C2C12)においてもAMPKを活性化する知見を得ていることから、DHEAが糖輸送の増強作用を持つ生理活性物質である可能性が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
筋収縮による骨格筋糖輸送の即時的活性化に影響を与える生理活性物質や薬剤、環境因子を新規に見出すべく実験を重ねているが、現在までに有意の増強あるいは減弱作用を持つ因子の同定に至っていないことから、進捗状況を「やや遅れている」と判断したものである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、糖輸送の即時的活性化に影響を及ぼす可能性のある生理活性物質、薬剤、環境因子等に関する検討を継続する。研究方法としては、これまでと同様に、ラットあるいはマウス個体あるいは単離した骨格筋に候補因子を負荷し、個体の運動負荷実験や単離筋の電気収縮実験を行って、糖輸送活性の変化及びその主要調節因子であるAMPKの寄与を検討する。増強因子あるいは減弱因子の 作用メカニズムにAMPKの関与が示唆された場合には、AMPK-DNマウスなどを用いて、筋収縮時の糖輸送の増強あるいは減弱が抑制されることを検証する。これまでに検討経験のない、あるいは少ない生理活性物質や薬剤を扱う際には、C2C12筋管細胞を用いたスクリーニング系において糖輸送やAMPK活性に対する基礎検討を行った上で動物実験に移行することを基本とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度のとくに前半において、新型コロナ感染症の拡大予防のため研究室活動の自粛を余儀なくされ、また共同実験施設が休室になるなどもあって、実験や解析が十分に行えない時期が長く続いた。結果的に予定していた研究が行えず、動物や試薬等の発注も少なくなり、次年度使用額が生じたものである。
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