本年度は、ラット骨格筋を用いた検討で、長時間の絶食によって、電気的筋収縮による5'-AMP-activated protein kinase(AMPK)の急性的活性化作用が増強されるとともに、収縮後に観察されるインスリン感受性亢進作用が増強されることを示した。実験では、Wistarラットを36時間絶食させた絶食群と摂餌を続けた摂餌群とに分け、それぞれをさらに収縮群と安静群に分けた。収縮群では、総腓骨神経への電極装着によって後肢への電気刺激を10分間行い、その直後または3時間後に長趾伸筋を摘出した。また、安静群では同様の処置をした後、電気刺激を行わずに長趾伸筋を摘出した。その結果、刺激直後の摘出筋においては、筋収縮によって惹起されるAMPKのリン酸化やその下流分子(acetyl-CoA carboxylase、TBC1D1)のリン酸が、絶食群において摂餌群に比し有意に増強された。さらに、刺激3時間後の摘出筋において、インスリンによって惹起される2-deoxyglucose輸送が、絶食群において摂餌群に比して有意に増強されるとともに、インスリン受容体の下流分子(Akt、TBC1D4)のリン酸化も同様に絶食群において有意に増強された。また、Aktの不活性因子であるtribbles homolog 3(TRB3)のタンパク質発現が、摂餌群に比して絶食群において有意に減少した。以上の知見は、絶食が、筋収縮によって即自的に惹起されるAMPKを介した糖代謝活性化の増強因子として作用するとともに、筋収縮後に生じるインスリン感受性亢進の増強因子としても作用する可能性を明らかにしたものである。
|