今年度はこれまでの研究成果のひとつを,フランス・パリで開催されたECSS2023(ヨーロッパ・スポーツ科学会)においてポスター発表を行うことに科研費の支援を得た. 国民の運動習慣のある人の割合を調査した厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」(2019)によると,男性が33.4%,女性が25.1%で,この10年間では女性が特に減少し,年齢別では女性では30歳代で最も低い.日本のこの社会現象に着想を得て,若年女性の運動習慣を促進・定着するために,①楽しさや興奮などの心理的要因が運動を持続させ,また,②仲間の存在がその運動を生理的に効率よく実施させる,という心身両面から問題提起した. それらの観点から,運動習慣をもたない女子大学生を対象に,快適自己ペースでの30分間トレッドミル走における単独走とパートナーとの並走との違いについて,比較検討した結果,パートナーの存在によって,ランニング中の覚醒は有意に上昇し,心拍数から効率の良い代謝応答が示された.またパートナーの存在は,運動中の「楽しさ」や「興奮」などのポジティブ情動の増加,「疲労」や「運動強度の知覚」の低減が,また,ランニング後の「楽しみ」と「興奮」の持続がみられた.速度の上昇を予測する因子には,「覚醒度」が抽出された.以上のように,仲間の存在によって運動行動の社会的促進が導かれることが明らかとなった. 本研究は運動習慣の促進を目的とし,教育課程等を終えて運動する機会が激減する若年女性への提言として,運動習慣のない大学生が30分間という長時間走を,パートナーの存在によってポジティブな情動と効率の良い代謝応答で運動継続できること実証した.国際学会ではスポーツ心理学を専門とする海外の研究者からも注目を集め,ディスカッションを通して多くの知見を得られた.学会前日には,ボルドー大学の最新の総合研究体育施設を視察し,研究交流の機会を得た.
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