脂質異常症の一つである高コレステロール血症の治療として3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA(HMG-CoA)還元酵素阻害薬(スタチン)が用いられている。スタチンには水溶性、脂溶性のものがあることが知られている。本研究では水溶性、脂溶性の両方のスタチンが濃度依存的に細胞増殖能を低下させることをマウス筋芽細胞由来細胞株であるC2C12細胞を用いて明らかにした。またスタチンが細胞毒性を示す濃度には閾値があることを確認した。スタチンによる細胞毒性は、究極的には細胞にアポトーシスとネクローシスを引き起こし、ミトコンドリア膜電位も正常値から逸脱することを確認した。細胞毒性を示している細胞では細胞のサイズが小さいことに加え、葉状仮足の形成が不十分であることも明らかとなった。筋芽細胞から筋管細胞への分化能では、細胞増殖能に影響を及ぼさない範囲の濃度であればミトコンドリア膜電位にコントロール群と比べて有意な変化は認めず、また分化能や分化効率にも有意な影響が認められないことを確認した。一方、細胞毒性を示す範囲であれば、たとえ分化直前の細胞密度をコントロール群と揃えたとしても分化能や分化効率を低下させることが明らかとなった。培養細胞株を用いたin vitroの実験結果からは、スタチンは水溶性であっても脂溶性であっても細胞増殖能やミトコンドリア膜電位にコントロール群と比べ有意な差が認められない範囲であれば、分化能を含めた細胞機能にネガティブな影響は認められないことが明らかとなった。
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