研究実績の概要 |
近年、体内に存在する内因性ホルモンなどの天然型生理活性物質を用いるドーピングが主流となっており、成長ホルモン(GH)も使用されているが、体内にも存在する内因性ホルモンのためにその検出が難しかった。成長ホルモンには分子量が異なるいくつかのVariantがあり、それぞれが決まった比率で血中に存在している。variantの一種で分子量20,000のGH(20K-GH)が、血中のGHの約6%存在し、成長ホルモン産生に占める割合も一定の割合で、ほとんど変化がない(Ishikawa M, et al. J Clin Endocrinol Metab. 84: 98-104, 1999. Tsushima T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 84: 317-322, 1999.)。外部からの成長ホルモン投与があった場合には、ほとんどが22K-GHであるため血中や尿中の20K-GHの割合が低下する。 本研究ではこの特性を生かし、試料を頭髪とすることで数ヶ月前のGHのドーピングや 長期の休薬があっても検出できる新しいドーピング検査方法の開発を目的とした。頭髪は侵襲なく採取でき、一か月に1cmほど伸長することから、毛根部から1cm刻みで頭髪を切断し、各部位を解析することで、1か月ごとの薬物摂取歴を分析することが可能である。体内に取り込まれた外部からの薬物は、毛乳頭に入り込んだ毛細血管部を介して毛根部に移行し、メラニン色素と結合して毛髪内部に蓄積するとされている(木倉瑠理、他。国立医薬品食品衛生研究所報告 116: 30-, 1998. H.Kimura, et al. J Anal Toxicol 23:577-, 1999.)。GHが頭髪内に取り込まれているのか、その量は本研究で使用する質量分析計(X500R QTOFシステム、Sciex社)で検出できるのかが、一つの課題であり、我々は、まず正常人の毛髪からGHを検出することを試みた。
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