昨年に引き続きコロナ禍の下、重度視覚障害者が自身の動きを認識できるデバイス開発に取り組んだ。対象として、近年国内に拡がりつつあるモルックに着目した。モルックは視覚障害者向けのスポーツではないが、当事者らに「晴眼者と一緒に楽しめるスポーツのニーズ」があることが分かったため、晴眼者対象のものを視覚障害者が楽しむというアプローチをとることにした。また、モルックは屋外で行うレジャースポーツであり、少人数で距離を確保しつつ楽しめるためコロナ禍におけるデータ収集にも適している。このモルックの投擲動作において、音声で「下手投げ」とだけ説明された場合に先天的な視覚障害者の動きが肘を固定して投げる独特なものであることが示された。そこで、投擲動作を提示できるシステムを試作した。 システムはカメラを備えたノートパソコンと2つの小型サーボモーターにより腕の振りを再現する長さ11cm程度の無線デバイスから構成される。デバイスは小型マイコンのESP32とカード型バッテリーを備えており、パソコンとはBluetoothのシリアルポート経由でデータのやりとりが可能である。動作の流れとしては、カメラから入力された画像をもとに、MediaPipeフレームワークにより腕の座標値を検出し、Bluetooth経由でデバイスが腕の動きをリアルタイムで再現する。視覚障害者はデバイスに直接触れることで、自分や他者の腕の振りを触知できる。3名の視覚障害者が本システムを用いたところ、先天的視覚障害者の投擲動作と他者のものとを明確に区別して認識できることが示された。
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