研究課題/領域番号 |
19K11546
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
板倉 直明 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (30223069)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多チャンネル表面筋電図 / 筋収縮メカニズム / 筋線維伝導速度 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、多チャンネル表面筋電図に関して、新たに提案したmulti-channel法(以下、m-ch法)を使用して、多チャンネル表面筋電図から定量的に抽出した伝播波に基づき、すべての伝播波の種々の伝播波パラメータの分布から、従来、考察できなかった収縮に関与する運動単位の数やその性質など、筋収縮メカニズムを考察するために必要な特徴や特性を多くの実験を通して明らかにすることである。また、その明らかにした特徴や特性が、スポーツやリハビリテーションなど多くの応用分野で簡単に使用し、役に立つデータとなるように測定電極の形状や信号増幅方法なども検討し、応用分野で簡単に使えるようにすることである。 本年度は、伝播波が形成される神経筋接合部付近の解析に加えて、針筋電図では、筋線維の組成ばかりでなく、その筋を制御する中枢運動制御機構の考察にも使われていたことから、利き腕と非利き腕の多チャンネル表面筋電図を比較することで、筋線維組成の違いと、脊髄優位型(利き腕)、皮質優位型(非利き腕)といった運動制御機構について考察した。また、m-ch法で抽出した伝播波パラメータについて、測定に用いる電極形状(円型と梯子型)の違いによる影響を検討した。 その結果、1)伝播波の形成過程を観察することで、神経筋接合部の詳細な位置決定や拡がり具合等が考察できた。2)神経筋接合部を挟んで対称的に伝播する伝播波対が、収縮開始時には発生しないことを明らかにした。3)利き腕と非利き腕の筋電図を同じ%MVCで比較したところ、伝播波パラメータが、利き腕では特定値に集中したのに対し、非利き腕では種々の値に分散した。4)円型電極と梯子型電極を交互に配置した電極を作成し、同時に抽出される伝播波を比較したところ、伝播波パラメータが、梯子型電極では特定値に集中したのに対し、円型電極では種々の値に分散した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たに考案したm-ch法では、測定されたすべての筋電図波形から、伝播状態を定量的に定義することで、すべての伝播波が自動抽出される。加えて、サンプリング定理から導かれる標本データから元のアナログ信号を近似する式を用いて、筋電図波形データを保持することで、近似式からデータ補間が可能であるため、必要充分な速度分解能が得られ、詳細な伝播状態を調べることができる。このm-ch法の特徴を生かすため、今年度は以下の課題1、2に注目した。 課題1は、針筋電図の研究では、筋線維の組成ばかりでなく、その筋を制御する運動制御機構の考察を行った研究はあったが、表面筋電図の研究においては、そのような研究は存在しなかったことである。課題2は、特別な電極を使用し、同時に測定した筋電図を厳密に比較することで、電極形状の違いが筋電図波形に与える影響を詳細に調べた研究は存在しなかったことである。 課題1に対して、利き腕と非利き腕の筋電図からm-ch法で抽出した伝播波を比較することで、筋線維組成の違いと、脊髄優位型(利き腕)、皮質優位型(非利き腕)といった中枢運動制御機構について考察した。運動制御機構の違いの影響が考察できる結果が得られたことから、リハビリやトレーニングの現場で参照できる新たな指標になることが期待される。 課題2に対して、直径1mmの円型電極と太さ1mmで長さ10mmの梯子型電極を5mm間隔で交互に配置した電極を新たに考案して作成し、同時に測定した筋電図において、同時に抽出される伝播波を比較し、測定に用いる電極の形状の違いによって、m-ch法で抽出した伝播波の特徴に違いが表れるかを検討した。その結果、電極形状の違いが伝播波パラメータに大きな影響を与えることが明らかになった。 以上のふたつの重要な発見により、m-ch法を用いて抽出した伝播波パラメータの分布は非常に有用な情報を含むことが立証できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方向は、m-ch法で抽出した伝播波から得られる伝播波パラメータの分布が、スポーツやリハビリテーションなど多くの応用分野で、簡単に使用し、役に立つデータとなるように、測定電極の材質や信号増幅方法なども検討し、応用分野で簡単に使えるようにすることである。 そこで第一に、m-ch法を最大限有効に活用できるような多チャンネル電極の開発を行う。多チャンネル表面筋電図では、全てのチャンネルで雑音の混入がない筋電図波形が得られないと伝播波を正しく抽出できない。特に、電極の表面積が小さいと、皮膚との接触抵抗が非常に大きくなることから、商用電源雑音の影響を大きく受けることが知られている。そのことから、電極近傍にプリアンプ等を配置し、出来るだけ雑音の影響を抑える工夫が必要になる。また、電極の材質によっても、皮膚との接触状態が変化するので、接触抵抗の影響を減少させることは、応用分野で簡単に電極を設置して、雑音が少ない筋電図を測定するためには非常に重要なことである。 さらに第二に、スポーツで重視される脚の筋肉において、多チャンネル表面筋電図を測定し、上腕二頭筋と同じような検討ができるか調べる。脚の筋肉は、腕の上腕二頭筋に比べて、大きい筋肉であるため、筋肉自体の大きさが得られる伝播波パラメータの分布に大きな影響を与えることが予想される。また、筋肉が大きい場合は、表面から筋線維方向を推測することは非常に難しいので、同時に筋線維方向を推定する方法を確立する。伝導速度は、筋線維の方向に沿って正しく電極を配置しないと得られないため、m-ch法の速度分解能の精度がよいことを利用して筋線維方向を推定する方法を検討する。
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