研究実績の概要 |
我々の人体は環境変化によって様々な生理的影響を受ける。宇宙飛行士は、長期間の宇宙ミッション中に筋萎縮や骨量減少といった影響を受ける。これら宇宙滞在中の生理的変化は、宇宙飛行士が帰還した後の地上への再適応過程で問題になることがある。宇宙滞在中に生じる生理的変化を事前に予測できるかを検討し、筋萎縮や骨量減少といった宇宙滞在中ならびに地上でも生じる生理的変化を検出するためのバイオマーカーを見つけ出すことは重要な課題である。 宇宙滞在という制限された生活空間では、地上のように健康診断や健康状態をモニタリングするのは難しい。そのため、被験者に侵襲性が少なく簡便に解析できる診断手法の開発が重要である。毛根は被験者から採取しやすく、生理的代謝状態を反映している。そこで、非侵襲的で簡便な診断方法の開発を目指して、毛根を含んだ皮膚組織中の因子に着目する。 2021年度は、前年に引き続きマウスを対象とした動物実験を継続した。AMP薬物注入により体温低下させ、不活動を誘導した群(AMP群)と麻酔投与により活動低下させた群(麻酔群)ならびに生理的食塩水投与群(対照群)から採取した体毛中のミネラル成分の変化を中心に解析した。 ICP-MSにより29種類(Na, Mg, Al, P, K, Ca, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, As, Se, Sr, Nb, Mo, Pd, Cd, Sb, Be, Nd, W, Pt, Hg, TI, Pb)のミネラル成分を測定した(濃度はppm)。Crは、対照群と比較して、AMP群ならびに麻酔群で減少している傾向があった。Ni, Hg, Pbでは、AMP群と麻酔群で増加している傾向があった。SbとBaは、AMP群のみが増加している傾向があった。
|