研究課題/領域番号 |
19K11552
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
井上 洋一 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (10193616)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スポーツの法的課題 / スポーツ紛争 / 競技者の権利 |
研究実績の概要 |
直近の我が国の紛争事例では、日本スポーツ仲裁機構の2020年度の裁定で競技者の権利と関わる事例は3件であった。そのひとつである自転車競技オリンピック代表選考をめぐる事例は、とくに、東京オリンピック・パラリンピック2020の延期で生じた選手選考機会の不公平を争う申し立てであったが、仲裁機関としては、先例の根拠4要件を引用し判断され、申立人である選手側の請求は棄却されている。そのほかは、デフリンピックで活躍した元指定強化選手に下されていた「選手のみならず協会全ての関係者と無期限接触禁止」とした日本ろう者スキー協会の処分解除をもとめた事例でも、その請求は棄却されている。一方、日本障がい者バドミントン連盟の「2021 年度強化指定選手・次世代アスリートの決定」において、申立人らを強化指定選手から除外した決定について、仲裁パネルは、その決定を取り消す裁定を下している。 次に、アメリカの競技者の権利と関わり、以下の2点をあげることとする。(1)人種差別に対する抗議活動とオリンピック憲章-アメリカでは昨年(2020年)、とくにブラック・ライブス・マターの運動と関わり人種についての活動がスポーツ界でも取り上げられた。そのもっとも明確に現れたのは女子プロテニスの大坂なおみによる抗議活動であった。多くの選手がこれらの行動を後押しする中、USOPCアメリカオリンピック・パラリンピック委員会は選手のこのような人種差別等に対する行動を容認する方向に舵を切った。しかしながら、2021年4月には、IOCは選手のスポーツ場面での政治活動を禁止してきたオリンピック憲章ルール50を再度確認する姿勢を示し、矛盾を生じる事態となっている。(2)競技選手の男女の平等をめぐる事例-かつては女性の参加機会をTitle Ⅸを根拠に争い、平等機会を勝ち得てきたこの領域にトランスジェンダー選手の参加をめぐる課題が生じている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体的な研究計画のうちで、昨年度と引き続き我が国のスポーツ紛争とくにスポーツ仲裁における直近事例の裁定から注目すべき点を挙げることができた。そして、そのほか現在注目されているスポーツ選手の盗撮問題等についても検討を進めることができている。さらに、新しくアメリカで生じている選手の権利をめぐる課題についての考察を進めている。 日本とアメリカ合衆国をみても同様に、スポーツ活動の発展とともに様々な公正・公平、安全に関わる課題がスポーツ界には噴出し、いま社会的にもそのことが問われてきている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、日本スポーツ仲裁機構の仲裁判断をはじめ、我が国の競技者の権利に関わる課題やスポーツ紛争等の動向の把握及びそれらの争点の検討を進めること、また、新しく生じている法的課題とそこでの団体や制度の変化を確認すること、そして並行して、アメリカでの状況、とくに競技者や参加者の権利と関わる事例とスポーツ団体のガバナンスに関わる事柄の検討を進めてゆくこととする。 これらのアメリカの事例を筆者はこれまで、法的課題として暴力問題、事故問題、参加機会、差別問題、選手の選考や参加資格問題、ドーピング問題等としてとらえてきた。さらに、新しい課題も生じており、それらを含めスポーツの先進国であるアメリカ合衆国と我が国を対象に本質的な課題の解明と今後のよりよい紛争解決方策を競技者や参加者の権利の視点から、検討することとする。これらの課題に迫ることは、国際的に今日注目されてきているスポーツインテグリティの一側面を追求することでもあり、さらに我が国の透明なスポーツ界の今後の発展、よきガバナンスの向上に寄与するものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
主として、資料及び情報収集のための旅費にあたる費用について新型コロナ感染拡大のためすべて実行できなかったため。
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