研究課題/領域番号 |
19K11552
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
井上 洋一 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (10193616)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スポーツの法的課題 / スポーツ紛争 / 競技者の権利 |
研究実績の概要 |
2021年度関係する日本スポーツ仲裁機構の裁定報告は3点であった。全日本大学ボクシング王座決定戦をめぐる事例はコロナ渦の影響での不戦勝による優勝決定の取り消しと決定戦の再開催を求めたものであった。その争点は、(1) 大会出場者に新型コロナウイルス感染者が出た場合に関する規程に基づかない本大会の開催は違法、(2) 本大会の開催は著しく合理性を欠き、被申立人の裁量の逸脱があるか、であったが従来の仲裁判断基準4要件を用いて、いずれも違法とはいえない、裁量の逸脱も認めらないとして、請求を認めなかった。ふたつめは、第 19 回アジア競技大会総合馬術競技代表人馬選考について、その選考基準決定の取り消しを求めたものであった。このケースでは選考決定が著しく合理性を欠くこと、本件決定に至る手続に瑕疵があることを挙げたが、同様に仲裁判断基準を用いることで請求を棄却されている。一方、競技団体のガバナンスに関わって仲裁応諾の課題が発生した。バドミントン協会が紛争の当事者として日本スポーツ仲裁機構に応諾しないという判断をしたのである。また、深刻化する選手の盗撮問題については、SNSに対する規制とともに、法整備の可能性について法務省でも検討されている。 一方、アメリカ合衆国では重大な性的虐待事件を受けて急速にスポーツ団体のガバナンスの強化に注目が集まっている。全米体操協会の医師で長年にわたり性的虐待を繰り返したナサール事件(2016年発覚)の衝撃は大きく、翌2017年には、アメリカセーフスポーツセンター(United States Center for SafeSport)が創設され、法制化とつながり、スポーツ競技の全米統括団体であるUSPOCのガバナンス強化の動きは、連邦法規であるオリンピック・アマチュアスポーツ法の改正に及んでいる。このことは、連邦議会による関与を意味しその評価とともに注目される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体的研究計画のうち、引き続き我が国のスポーツ紛争とくにスポーツ仲裁における競技者の権利と関わる事例について、直近の日本スポーツ仲裁機構の裁定事例からあげることができた。 また、一昨年から注目された競技者をめぐる盗撮問題について、現今の具体的逮捕事例やその進みつつある具体的対策とその限界また今後の法制化の可能性と課題点等について検討することができた。 一方、アメリカ合衆国で生じたスポーツ界の大事件はその衝撃の大きさから新たなスポーツ組織を創設することに繋がり、広く競技スポーツ団体そして統括団体であるUSOPCのガバナンス強化の方向を推し進めた。されに、そのことは連邦法規の改正にまで及んだことなど理解が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
日本スポーツ仲裁機構の仲裁判断をはじめ、我が国の競技者の権利に関わる課題やスポーツ紛争等の動向の把握及びそれらの争点の検討を引き続き進めること、また、新しく生じている法的課題や現在取り上げられつつある我が国のセーフスポーツセンター(仮)の創設の可能性などの動向を把握し、今後の方策を検討する。 一方、アメリカについては近年の重大事件を契機にして組織の創設や法整備にわたる制度的改革の動向とその内容の考察をすすめること、また新しく生じている選手の権利をめぐる課題についての考察を行う。アメリカでの選手の権利をめぐる紛争事例を筆者は、これまで暴力問題、事故問題、参加機会、差別問題、選手の選考や参加資格問題、ドーピング問題等としてとらえてきた。さらに、特別な課題も生じており、それらを含めスポーツの先進国であるアメリカ合衆国と我が国を対象に本質的な課題の解明と今後のよりよいスポーツ環境の構築のために競技者や参加者の権利の視点から、検討することとする。 日本とアメリカ合衆国をみても同様に、スポーツ活動の発展とともに様々な公正・公平、安全に関わる課題がスポーツ界には噴出し、いま社会的にもそのことが問われてきている。これらの課題に迫ることは、国際的にも今日注目されてきているスポーツインテグリティの一側面を追求することでもあり、さらに我が国の透明なスポーツ界の今後の発展、よきガバナンスの向上に寄与するものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
主として、新型コロナ感染の拡大の影響を受けたため、資料収集及び情報収集のための旅費と資料整理のための人件費・謝金に関してすべて実行できなかったため。
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