研究実績の概要 |
骨格筋量の維持・増進の方策提案およびそのメカニズムの解明は、健康寿命伸延のための必須の課題である。本研究では、飢餓ストレスによるタンパク質分解に着目し、タンパク質合成を高めるためには、タンパク質分解が重要であるとの仮説のもと研究を実施している。最終年度は、個体レベルでの効果を検討するためマウスを対象として異なる絶食時間(2, 6, 12時間)後の栄養素再補充が骨格筋のタンパク質合成促進シグナルに及ぼす影響を検討した。その結果、2時間絶食群に比して6および12時間絶食群では、グルコース・分岐鎖アミノ酸(BCAA)混合液の投与によるタンパク質合成シグナルの上昇が減弱した。6および12時間絶食群では、血糖値および血漿インスリン濃度が2時間絶食群に比して有意に低値を認めた。また、6および12時間絶食群では栄養素再補充による細胞内への糖およびBCAAの取込み能が減弱することが示された。以上の結果より、長時間の絶食は栄養素再補充による骨格筋タンパク質合成促進シグナルを減弱させる可能性が示唆された。 研究期間を通じて、細胞レベルでは飢餓ストレス後の栄養素再補充によるタンパク質合成の増強作用とそのメカニズムを明らかにすることができたが、個体においては飢餓ストレスの程度によって影響が異なることが認められた。個体におけるタンパク質代謝は、内分泌系により複雑に調節されていることが示唆された。一方、単回の絶食ではなく、比較的長時間の絶食を繰り返すことにより個体におけるタンパク質代謝が適応し、骨格筋量を維持できる結果を得ており、そのメカニズムについてさらに検討を進めたい。
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