骨格筋の不活動は筋の萎縮を生じさせるとともに,ミトコンドリアの機能を変化させたり, インスリン抵抗性を生じさせたりして,エネルギー代謝にも影響することが明らかにされている。しかし,そのメカニズムは不明な部分も多い。本研究では骨格筋への機械的刺激や荷重負荷によるエネルギー代謝調節機構に関与する分子の一つとして神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)を想定し,その発現やリン酸化,また一酸化窒素(NO)によるタンパク質の翻訳後修飾の一つであるタンパク質のニトロ化が,萎縮筋において変化するのか否かを検討した。2020年度までは,主に遅筋線維で構成され,不活動によって筋萎縮が生じやすいヒラメ筋を用いて分析を行なってきた。2021年度は主に速筋線維で構成され,不活動による筋萎縮の程度がヒラメ筋よりも少ない足底筋を用いて分析を行なった。分析の結果,萎縮した足底筋において,nNOS発現に変化は認められなかったが,nNOSが機能するために必要となるタンパク質であるHSP90は減少することが明らかとなった。したがって,萎縮筋におけるnNOSによるNOの合成は低下する可能性が考えられた。また,タンパク質のニトロ化は変化しなかった。この結果から,タンパク質のニトロ化が,不活動によるエネルギー産生の低下に関係している可能性は低いと考えられる。しかしながら,本研究では,解糖系や酸化系酵素のニトロ化を分析していないことから,ニトロ化の変化についてはさらなる検討が必要である。2019年度から2021年度の結果から,骨格筋への機械的刺激や荷重負荷の減少により,NO合成は低下する可能性が考えられたが,それがエネルギー代謝の調節に関係しているか否かはさらなる検討が必要となる。
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