研究課題/領域番号 |
19K11565
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
北脇 知己 関西医科大学, 医学部, 教授 (40362959)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生体計測 / スポーツ科学 / スポーツバイオメカニクス / 運動解析 / 自転車ペダリング |
研究実績の概要 |
この研究では、自転車ペダリング動作を評価するための指標を確立することを目的としている。そのため、(1) 自転車クランクとペダルの回転状態を正確に計測し、その変動成分を解析して自転車ペダリング動作を定量的に計測可能なデバイスを構築すること、(2)自転車ペダリング動作と関係する筋活動を推定することで自転車ペダリング動作スキルの評価指標について研究を行うこと、さらに(3)新しいスキル指標を用いて高スキルペダリング技術の習得法について検討すること、を目標として研究計画を立案していた。このペダリング動作スキル評価のためには、自転車ペダリング中のクランクとペダルの回転状態を正確に頻度高く計測する必要があり、同時にペダリング動作を正確に記録する必要がある。申請時の予定では、こうしたクランク・ペダルの回転状態と被験者のペダリング動作を同時にリアルタイムで計測・表示可能な「自転車ペダリング回転変動状態測定システム」を構築する予定であった。 しかしながら、本年度(令和2年度)は、新型コロナウィルスの影響により、当初予定していた、システムの開発につなげるための自転車ペダリングの回転変動を測定する実験を行うことができなかった。そこで、この実験にかわるものとして、以前に入手していた、(1)市販の計測装置(加速度、角速度センサ)をクランク軸とペダル下部に取り付けて計測したデータ、(2)被験者の自転車ペダリング動作を動画計測(モーションキャプチャ)したデータ、を用いて以下の解析を新たに行った。(1)自転車ペダリング時のクランクとペダルの回転角度変化を正確に計測する手法の確立、(2)被験者の自転車ペダリング動作から、クランク回転角度・ペダル角度と下肢関節角度変化との関係を解析して、自転車ペダリング動作の、どこにペダリングスキルに関係する動作が現れているかの評価。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた「自転車ペダリング回転変動状態測定システム」の構築はできなかったものの、代替案としてこれまでに入手していた実験データを用いて解析することで、ペダル回転角度の計測方法と、基本的なペダリング動作スキルを評価するために必要な解析手法について検討を行うことができた。これらの解析により、以下の成果が得られた。 (1) これまでに自転車クランクに取り付けた計測装置(加速度、角速度センサ)を用いて、クランクの回転状態を正確に頻度高く計測する手法を開発していた。この手法をペダル下部に取り付けた計測装置に応用して、ペダル角度変化を誤差なく計測する手法を新たに構築した。この計算手法については、現在論文投稿中である。なおこの手法は、自転車に取り付けた小型の計測センサのみを用いることで、ペダリング運動中のクランクとペダルの回転状態を正確に計測可能な手法であり、これを応用して今後ソフトウェア的な開発を行うことでリアルタイムにクランク・ペダル回転速度変化を表示することや、回転速度データから算出されるスキル指標等の表示も可能となる。 (2) 自転車ペダリング動作のモーションキャプチャデータを解析し、ペダリング時のクランク角度ごとの股関節と膝関節の同期性や、足関節とペダル角度の関係を解析する事で、被験者のペダリングスキルの違いについて検討した。特に足関節の動きに着目した検討により、ペダリング動作スキルの違いが足関節の角度変化とともに、ペダル角度変化にも現れているため、ペダル角度からペダリング動作スキルを推測できる可能性について予備的ではあるが明らかとなった。この結果は、新型コロナウィルスの影響により2020年から開催が延期となった、学会(Science & Cycling 2021年9月開催予定)に、追加の解析を含めて詳細に発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により、クランク角度とペダル角度の変化に自転車ペダリング動作スキルの特徴が現れていると考えられる。この結果をふまえて、今後はさまざまな条件での自転車ペダリングデータの収集実験を予定している。この自転車ペダリングデータの収集では、実際の自転車ペダリング動作における下肢筋群の連動効果が明確に現れるように、また下肢筋についても各筋の力発揮状態の違いを解析できるように、ペダル踏力強度やクランク回転数を変化させて実験を行う計画である。また状況によっては、サドル位置やクランク長さなどについても変化させて、さまざまな状況での実験を行うことを予定している。 さらに、被験者にクランク回転角度ごとの、回転変動状態やペダル角度変化などを正確に測定した結果をフィードバック表示することで、被験者が自身のペダリング動作を客観的に理解する助けとし、ペダリング動作スキル指標の評価につなげていく予定である。また、こうして得られたペダリング動作解析の結果を利用し、クランクやペダル回転変動状態をリアルタイムに表示できるシステムを構築し、一般サイクリストにもわかりやすい解析結果の表現方法についても検討する予定である。 一方で、今後も新型コロナウィルスの感染状況によっては、人流の制限から実験を含む研究活動が大きく制限されることも予想される。また、海外への渡航制限などにより、研究成果の発表にも制限がある可能性も高い。そこで、実験規模の縮小やソフトウェア開発時のオンライン打ち合わせを利用すること、またオンライン学会などでの発表などを考えているが、研究計画が遅れる可能性を考慮しながら今後の研究を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により、当初予定していた自転車ペダリングの回転変動状態を測定する実験を行うことができなかった。そこで、既に入手していた自転車ペダリングデータのモーションキャプチャ用動画データを用い、被験者のペダリング動作解析を行うために、モーションキャプチャ用3次元動画解析ソフトウェア(Move-Tr/3D)を新たに購入した。このため、物品費は当初予定金額よりも高額となったものの、研究発表に予定していた旅費が未使用であったことや昨年度の繰越金を利用することで、令和2年度の実支出額は906,991円となり、差し引きの今年度の繰越額は653,254円となった。 この繰越額は、来年度(令和3年)以降に、新たな測定システムの導入、実験用の消耗品、研究成果発表や研究打ち合わせのための旅費などとして使用する予定である。ただし、今後の新型コロナウィルスの感染状況によっては、実験を含む研究活動の制限や海外での研究成果発表が制限されることが予想され、研究計画が後ろにずれ込む可能性がある。
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