研究課題/領域番号 |
19K11566
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
梅崎 高行 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (00350439)
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研究分担者 |
酒井 厚 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (70345693)
眞榮城 和美 白百合女子大学, 人間総合学部, 准教授 (70365823)
前川 浩子 金沢学院大学, 文学部, 准教授 (10434474)
則定 百合子 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (10543837)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動機づけ / 社会性の発達 / コーチング / ペアレンティング / ピア・リレーションシップ / 自律性支援 / 縦断研究 / 相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究は,青年移行期におけるスポーツの継続/離脱に関わるエージェントの影響を,動機づけメカニズムの観点から,縦断的に検討することを目的とした。 わが国では,児童期には7割を超える子どもたちがスポーツに親しんでいるものの,高校進学を機にスポーツへの参加率が5割を切り,「何もしない子ども」に転じていく現象が知られている。心身の健康を維持するためには,生涯に渡って適度にスポーツに親しむことが求められており,移行期の離脱を緩やかにしていくことは大きな課題である。先行研究では,動機づけの観点から,(1)3つの心理的欲求:自律性(行為の主体でありたい),関係性(集団の一員でありたい),コンピテンス(環境へ有効に関わりたい)が満たされず,強く統制性が知覚されるような動機づけ環境や,(2)課題への習熟や努力よりも,他者比較や外的な基準に従ってコンピテンスが満たされる偏った動機づけ環境がスポーツからの離脱を生み,たとえ継続された場合でも,スポーツを通した精神的な健康が得られにくくなることを示してきた。こうした動機づけ環境の構成に大きく関わるエージェントとして,指導者,養育者,仲間が想定されることから,本研究では3エージェントの関わりと,アウトプットとしての動機づけ変数との関連について検討する。 このような視点でなされる研究は以前から見られるものの,(あ)横断的データによる因果モデルから検討されてきた,(い)対象者による自記入式の調査票に基づき,その範囲で推論がなされてきた,などの課題が指摘されている。この点を踏まえ,移行のプロセスを明らかにすることを目指し,(あ´)児童期から青年期にかけてデータを収集する縦断調査を計画し,この中で(い´)対象者を広げ観察法を併用するなど,トライアンギュレーションによってデータ収集を行った。初年度に当たる2019年度は,概ねこの計画を遂行することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,小学5年生から高校1年生まで,6年間に渡って対象者をフォローアップする縦断調査を計画し,その前半に当たる3年間についてデータ収集ならびに解析を実施する予定である。 この計画のうち,予定通り進められた点は2点ある。(1)調査票ならびに観察測度の構成について,先行研究から信頼性と妥当性が確認された尺度を抽出し,原著者に使用許可を求めた上でバックトランスレーションを行い,有意なデータ収集を可能とした調査票を構成することができた。第1波調査はこの調査票を活用して実施されたものである。また,観察測度(多次元動機づけ雰囲気観察システム;MMCOS(Smith, Tessier, Tzioumakis, et al., 2015))についても日本語版の作成が進められている。具体的には,Jリーグ下部組織5カテゴリ(U18,U15,U14,U13,U12)を対象に,3ヶ月間隔(6月,9月,12月)で3回/年の観察を行い,MMCOS日本語版を援用して,選手の発達を考慮した動機づけ環境の評定を行った。この評定値と,選手ならびに指導者から収集されたアウトプット変数(クラブが掲げる規範尺度得点)との関連を示すことによって,今後の調査におけるMMCOS日本語版の活用可能性についても報告を予定している。(2)本計画の立案や仮設生成に用いられた先行研究のレビューと,本研究に先立って実施された縦断調査について,成果報告を行うことができた。 一方,課題としては,6年後に有効な解析を実施すべく,初年度の回収目標数とされた対象者数(500家庭)に届かず,親子とも回収できたデータ数が144家庭に留まった点である。この課題については,協力者の利便性を考慮して採用されたウェブ調査が,意に反して問題であったと考えられ,第2波調査ではウェブと紙媒体を選択できる体制を整えつつ,追加リクルートを行う。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】で記したように,回収数が目標数に届かなかった点については,ウェブ調査の構成(ウェブ上で全容/調査の終わりが見える構成となっておらず,対象者が不安を覚えた点)が問題であった可能性を考えている。この点に加えもう一つの課題として,調査項目数が多く,対象者の負担が実質的に大きかった点も否めない。そこで第2波調査ならびに追加リクルート調査からは,縦断研究への影響を最小にしながら,選手版・保護者版とも質問項目数を7割程度にまで減らし,回答にかかる時間を15分程短縮することでこの課題に対応する。この改訂調査票は,すでに準備が完了している。 最後に,新型コロナウィルスの動向が研究に影響する可能性について指摘しておく。6月に予定していた第2波ならびに追加調査については,研究協力者が置かれた状況など様々な要因を考慮し,共同研究者と相談しながら柔軟に調査を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた経費は研究分担者の分担金である。今年度は調査票の構成と第1波調査が中心的な作業となり,研究分担者が経費を使って具体的に調査へ従事する場面がなかったことから,費用を繰り越し,2年目ないし3年目の成果発表の際に有効に活用していく。
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