研究課題/領域番号 |
19K11576
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
中田 大貴 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (40571732)
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研究分担者 |
紙上 敬太 筑波大学, 教育推進部, 准教授 (20508254)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳波 / 事象関連電位 / 誘発電位 / 子ども |
研究実績の概要 |
本研究では小学生の器械体操(鉄棒・マット運動)を対象とし、脳波事象関連電位や誘発電位を「運動学習能力の脳神経科学的バイオマーカー」として捉え、運動パフォーマンスと脳波事象関連電位や誘発電位との関連性(横断的研究)、トレーニングによって生じる運動学習能力の変化と脳神経活動の可塑的変化の関連性(縦断的研究)、運動学習過程で生じる子どもの運動イメージ形成能力に関わる脳血流動態と運動パフォーマンスとの関連を解析する。 本年度は、小学校4年生を34名を対象とし、事象関連電位と体性感覚誘発電位を計測した。また対照群として、一般成人26名を対象とし、同様の計測を行った。脳波の様々な記録・解析方法のうちでも、特に外部の信号で脳波を加算平均して得られる事象関連電位はミリ秒単位の時間的解像力を持ち、認知・判断という速い現象に関連する脳活動が「いつ、どのように」行われているかを明らかにすることができる。本研究では事象関連電位のうちでも、①体性感覚刺激によるP300成分、②聴覚刺激によるP300成分を記録し、新体力テストとの記録・器械体操のパフォーマンスと比較・検討する。P300成分はオドボール課題等の認知課題を遂行中に記録される脳電位であり、高次認知処理過程を反映しているとされる。体性感覚刺激・聴覚刺激によって、高次認知処理過程における感覚モダリティーの違いを検討する。体性感覚誘発電位は、末梢感覚刺激を刺激することによって体性感覚に関係する大脳皮質の神経活動を計測するものである。 それぞれの電位動態と運動パフォーマンスとの関係性を明らかにする。具体的には、例えば逆上がりには筋からの自己受容器感覚が重要であると推察されるため、逆上がりできる子は体性感覚刺激によるP300成分の電位振幅が大きく、できない子は電位振幅が小さいかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小学校4年生を34名を対象とし、事象関連電位と体性感覚誘発電位を計測した。また対照群として、一般成人26名を対象とし、同様の計測を行った。現在、体性感覚誘発電位のデータに関する解析・論文化は終わり、国際誌「NeuroReport」に既に掲載された(Takezawa et al. 2019 NeuroReport)。具体的な研究内容として、右手正中神経を刺激することによって計測された体性感覚誘発電位に関し、小学校4年生の波形は一般成人のものと特性が異なっていた。一般成人では、刺激対側の電極部位においては、P1(P12)成分、N1(N18)成分、P2(P22)成分、N2(N27)成分、P4(P45)成分、N4(N60)成分が得られる。一方、小学生では従来の成分の他に、N2(N27)成分とP4(P45)成分の間に、P3成分とN3成分が記録された。また、P2(P22)成分の振幅は、小学生の方が一般成人よりも有意に大きかった。これは体性感覚認知処理の一部において、子どもの脳では過剰興奮(反応)があることを意味していると考えられる。反対にN2(N27)成分の振幅は、小学生の方が一般成人よりも有意に小さかった。これは体性感覚認知処理の一部は低興奮(反応)があることを意味していると考えられる。以上の結果は、小学校4年生の段階ではまだ体性感覚認知に関わる神経活動は、完成していないことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
まず、事象関連電位の解析を進め、体性感覚刺激・聴覚刺激によって、高次認知処理過程における感覚モダリティーの違いを検討する。また、子どもの運動学習過程で生じる運動イメージ形成能力と器械体操の運動パフォーマンスとの関連を明らかにするため、器械体操動作中のイメージについて、近赤外線分光法(NIRS)を用いて、脳の血流動態から評価する。しかし、現在のところ、コロナウィルス関係で小学生に被験者をお願いするのが難しい状況にある。今後の情勢を見極めながら、研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2月3月に予定していた実験ならびに打ち合わせ等が、コロナ関係で中止になったため。令和2年度に行う予定である。
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