本研究課題の目的は、運動強度が異なる最大努力による自転車ペダリング運動のパフォーマンス向上を目的としたトレーニングに対する経頭蓋的直流電気(tDCS)の効果を系統的に検討することであった。2019年度は、運動強度と持続時間が異なる3種類(約8秒、100-200秒、10-15分)の最大努力によるペダリング運動時の大脳皮質運動野に対するtDCSの影響について検討を行い、全ての課題において陽極tDCSは有意にパフォーマンスを向上させた。 2020年度は、約60秒間の全力ペダリング運動をモデルとして、5分間の比較的高強度の有酸素的なトレーニングとtDCSの組み合わせ効果を検討し、トレーニング時に陽極tDCS刺激を与えたトレーニング群では、60秒全力ペダリングの後半相において有意に高いパワー発揮が観察された。 2021から2022年度(最終年度)における研究では、日常的に運動を行っている健常な男女16名を対象として10分程度継続可能なペダリング運動をモデルとして、2週間の有酸素トレーニング時と陽極tDCSの組み合わせ効果を検討した。その結果、トレーニング期間後にペダリング持続時間は有意に延長したが、陽極tDCSとSham刺激間に有意な差は認められなかった。 本研究からは、陽極tDCSは短距離走から長距離走を想定した最大努力によるペダリング運動パフォーマンスを向上させる効果を確認できた。また、60秒間の最大ペダリング運動に対する持久的トレーニング効果を増強させる効果を確認でき、トレーニング時の中枢神経系興奮性の亢進が重要であると示唆された。一方、当初の予想に反し、tDCSと持久的トレーニングの組み合わせでは有意な向上が見られなかった。この要因として、持久的運動の負荷や継続時間設定、被験者の鍛錬度等の複雑な要因が考えられる。今後、これらの要因を考慮した実験が必要であると考えられる。
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