人間が一定の大きさの筋力を持続的に維持した場合,やがてその維持はできなくなる。これを疲労困憊と呼ぶが,本研究の問いは疲労困憊が生じる原因を明らかにすることであり,そのために疲労困憊直後の最大筋力発揮に着目した。研究期間全体において,持続的筋収縮は右人差し指による等尺性外転(母指側に開く動作)を用い,筋力発揮に関わる末梢性および中枢性の要因(それぞれ末梢性疲労および中枢性疲労)は経皮的神経電気刺激によって評価した。 2019年度は,持続的筋収縮による疲労困憊直後に測定される最大筋力に対して,疲労困憊直後の短時間休息の有無が及ぼす影響を検討し,疲労困憊直後に短時間休息を挟まなくても,最大筋力は疲労困憊時の発揮筋力よりも大きいことが明らかとなった。疲労困憊時には,持続的筋収縮で求められている筋力を維持する機能は保たれていることが示唆された。 2020年度は,新型コロナウィルス感染症予防の観点から対面で行う実験を実施できなかった。 2021年度は,様々な強度による持続的筋収縮が疲労困憊直後の最大筋力発揮に及ぼす影響を検討した。持続的筋収縮は低強度・中強度・高強度の3条件を設定した。その結果,疲労困憊直後の最大筋力は全条件で疲労困憊時の発揮筋力よりも有意に大きかった。末梢性疲労には条件間で有意な差は見られなかった。疲労困憊は持続的筋収縮の強度に関わらず,一定水準の末梢性疲労が起きないように生じていることが推察された。 2022年度は,持続的筋収縮による疲労困憊直後に測定される最大筋力に対して,最大筋力発揮時の発揮速度が及ぼす影響を検討した。検討の結果,発揮速度の速度に関わらず,最大筋力は疲労困憊時の発揮筋力よりも有意に大きく,同等の値を示した。 以上から,持続的筋収縮による疲労困憊時に余力は残されており,疲労困憊は末梢性疲労が一定水準を超えないように生じていることが示唆される。
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