研究課題/領域番号 |
19K11603
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研究機関 | 江戸川大学 |
研究代表者 |
野田 満 江戸川大学, 社会学部, 教授 (00636300)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メンタルローテーション / 軌跡 / 周期性 / 揺れ / 幼児 / 重心動揺 / 周波数 / 姿勢 |
研究実績の概要 |
本年度の研究目標は既得データによる動作の分析を通じて、複雑系としての心-身関係を捉える準備的分析を行うことにあった。2つの挑戦的試みを中心に、身体の振る舞いへのアプローチを展開した。第1は手によるPC画面上での探索軌跡の分析であり、第2は立位姿勢での重心動揺の軌跡の分析である。前者は目-手協応、後者は姿勢に関する時系列変動をみたものになる。 目-手協応を調べる上で、穴のぞき課題を作成実行した。メンタルローテーションに似ているが少し異なる。標準図形は画面上に見えているが、傾いた比較図形は一部分を除き、全体像が見えていない。透明の正方形の小さな窓は可動式で自由に動かせる。隠れた図形を見るために窓を動かし探索した際の座標を記録した。時系列の座標変化、停留から濃さのdpi、探索の速度や加速度を得た(HSP利用、サンプリングレートは .3k~1kHzで不定)。興味深い変化を捉えた。RT, dpi, 加速度いずれにおいても、試行前半でU字型カーブ、あるいは1峰が現れた後、試行後半で別の峰が形成された。イメージ探索期とイメージの確認期の存在が推察された。一部、欧州発達心理学会(ECDP)で発表した(Noda,2019)。 シナジーの観点から重心動揺が有効な手がかりを与えるものと考えた。Wiiバランスボード(WBB)と集積にWBBSSver1.1を用いた卒論データに基づく。参加者は大学生12名と知的障碍児7名、立位姿勢で30秒間定位させた。サンプリングレートは100Hz。フーリエ変換を行った後にパワースペクトルを得て、特徴的な周波数を抽出した。また周期性を調べるため自己相関を得た(ラグの値は3.3%(100))。フィルターはかけず周波数解析を行ったところ、両群とも高周波帯域に何らかの周期が認められたが、知的障害児群では2Hz以下の低周波にも周期が見られた。揺らぎの差異の意味が問題となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
手操作と身体の揺れが認知課題を遂行していく上で重要な役割を果たすと考えられる。本年度は先の研究業績の概要でも述べたように測定のための基盤の時期と捉えていた。しかし、実際にデータを分析すると予想外のデータの振る舞いが現れた。研究実績に即し反省を踏まえた進捗状況を記す。 (1) 目-手協応:身体の協応化が対象を表象内で操作する前提となると考えている。子どもは実際に一部分しか見えていない対象のイメージを、手で窓の位置を動かしながら形成するだろうことが予想されていた。確かに順次成績は良くなったが、果たして道具をうまく扱えたかどうかという問題が残った。マウスカーソルの延長上に窓を設定していたので、間接的な道具使用となった。新しい手法を開発することで、より自然な操作で、協応化の状況を捉えることができれば良いと考えている。 (2) 高周波・低周波の扱い:身体の揺れについて重心動揺計としてのWBBの有効性を検討した。しかし、WBBで測定した高周波での特徴的なピークの表れが何を示しているのか現状では推し量れない。身体内部の微細な変化が反映したのかもしれない。高周波の身体動揺には複数のセグメントが独立して振動したために生じた可能性があるが、シナジーとして身体の姿勢保持の働きを考えると、低周波(あるいは高周波)だけを対象にして良いか検討する必要があるという課題が残った。仮にWBB上でメンタルローテーションのような認知課題を行った場合、そこで得られた身体動揺の周期に対する解釈や意味付けをいかにするべきかという問題と繋がると思われる。 (3) 軌跡のあてはめ:最小二乗法によるマーカーの空間軌跡の分析がまだ着手できていない。WBBは予定外の分析となったが、そこで用いたMatlabによる周波数分析の手法は役立ったといえる。その意味でメンタルローテーション中のマーカーの周波数分析の準備はより整ったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
メンタルローテーション課題に含まれるイメージの系列化は、空間的な位置の変換を伴うので、視覚的要因だけでなく運動的要因が含まれることがわかっている。本研究は、この運動要因と発達的に順次変化する空間の位置の理解とが、いかに関連するかを明らかにすることが目的となる。本研究の方策として、現段階では、子どもに実施した対象変換課題における運動の周期性あるいはパターンの確定作業が進行中であるので、身体の揺れのデータ分析とあわせて、新たに配置課題を行うことで動きの各指標をデータ化することを検討している。ただし、世界規模で蔓延した感染症の影響からフィールドワークに制限がかかり、データサンプリングが難しいことが予想される。 本年度は以下に示す通り、幼児に対して事象の系列配置を行ったところ身体の動きに関して性差を見出したので、国際学会で発表することを予定している。この成果は学内研究助成による研究を発展させたものである。次に、イメージの連続的変換を求める課題(メンタルローテーションあるいはそれに類似した課題)を通じて、身体の動きが明確に数量化できる課題を試行的探索的に行い、データの信頼性妥当性等、基礎的事項の検討を行う予定でいる。また付加的に、別のプロジェクトで既に進行している幼児のメンタルローテーションと手の動きに関する国際共同研究からの知見もあわせて本研究へ関連付けていく予定である。 (1)Cognitive Science 2020 で発表予定(COVID-19のためバーチャル・プレゼンテーション形式で実施予定) (2)身体の揺れデータに関する未着手部分の遂行:空間変換課題中の身体マーカーや身体の揺れの軌跡の周波数解析を通じて、身体各部の同期の確認と、特定の周期性の探索を行う。 (3)メンタルローテーションと手の動きの詳細な関連性に関する研究の遂行。特に観察された手操作のコーディングについて。
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次年度使用額が生じた理由 |
カオス解析・不安定軌道解析ソフト及び専用のPCを当初予定していたが、既得データの周波数解析を中心に実施した。そのために当初予定していたカオス専用のソフト等の購入一式を控えることとなった。 ただし、身体の振動を捉える上で、Matlabによるフーリエ解析及び自己相関の結果、いくつか説明を要する複雑系の現れとみなされる現象が見いだされた。そこで周波数解析を丹念に行うこととなり初年度の時間を費やすことになった。周波数解析は当初の予定外の研究手法であったが、有益な情報をもたらすことがわかり、カオス分析に入る前にまずは周波数分析という段取りとなった。 周期性の確定という方向で、現在も解析を進めているが、一定の微弱な周期がその後に攪乱されて消滅していくことからも、カオスの淵があるらしいところまでは推測している。その意味で本年度に行ってきた周波数解析は、子どもの身体の微弱な揺れの中に潜むリズムとその崩壊を示唆するものである。課題最中の時間を適切に区分化し、それぞれでの周期性の変化を読み取るように設定するためには、まずは周波数解析を最初に実施してから、最も適切な箇所で(崩壊が始まる直前で)カオス分析を行うことが、有効であろうと想定している。今後、身体の揺れをより明確かつ包括的に捉えるために別の新たな実験を組み、さらに専用の装置また解析ソフトが必要になってくると思われる。
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