研究課題/領域番号 |
19K11609
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研究機関 | 大阪商業大学 |
研究代表者 |
迫 俊道 大阪商業大学, 公共学部, 教授 (40423967)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 身体教育 / なぞり / さぐり |
研究実績の概要 |
2021年度に実施した意見交換のトランスクリプトの作成と整理を行った。十二神祇神楽を伝承する石内神楽団に対する参与観察を2022年5月14日に開始し、9月10日まで合計12回実施した。参与観察では、神楽の稽古をデジタルビデオカメラで撮影し、観察の「気づき」をメモとしてノートパソコンに記録した。 スポーツ科学、情報学、国際文化などに精通している研究者と意見交換を行った。意見交換は、新型コロナウイルスの感染状況に応じて、対面とオンライン形式を使い分けた。意見交換により、本研究の問題意識は言語教育などの分野にも関連することがわかった。スポーツ科学の研究者からは、運動学に関する情報提供があった。スポーツ指導における「なぞり」の具体的事例を確認し、「なぞり」概念と親和性が高い身体活動と、そうではない活動の整理ができた。 国立国会図書館(東京本館)において、運動学、民俗芸能、スポーツ科学、脳科学などの分野で、本研究に関連する論文を収集した。 2022年8月31日~9月2日に順天堂大学で行われた第72回日本体育・スポーツ・健康学会に参加した。同学会のスポーツ文化研究部会シンポジウム「スポーツ文化の浸透戦略(2)―身体文化の伝承・継承を科学する―」に出席し、専門的知識を有する者との質疑応答により、身体技法の伝承を指導者と学習者の両側面から分析する意義を確認できた。 2022年9月に日本地域資源開発経営学会第11回全国大会(オンライン開催)において、「身体所作の習得過程における指導者の「観察」と「気づき」」という演題で研究発表を行った。質疑応答を通じて、「運動学」分野の研究内容と本研究の「なぞり」「さぐり」の概念整理が今後の研究課題であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度に課題としてあがった「運動学」に関する研究について意見交換を行うことが出来た。「運動学」に関する論文や図書の文献資料の収集は、着実に進んでいる。本研究の重要な概念である「なぞり」「さぐり」については、教育と深く関連していることから、結果として幅広い分野の研究者と意見交換を行うことになった。 意見交換では参与観察で収録された映像資料を確認しながら、本研究の目的やねらいを説明した。情報学に詳しい研究者から、映像撮影の方法について貴重な意見が得られた。稽古の全体を撮影するだけではなく、「指導者の視点」から撮影を行う必要があるのではないか、指導者からみた稽古の様子を分析することで指導者の「なぞり」「さぐり」の行為の内実への接近が可能になるのではないか、という指摘があった。2023年度の参与観察実施の際には、新たな視点から映像収集を行う。 2022年度は2019年度と同程度の参与観察を行うことが出来た。参与観察を行った際、身体所作を教える者と学ぶ者の様子を映像収集した。本研究は2019年度に開始した調査であるが、2020年度、2021年度はコロナ禍の影響を受け、参与観察対象組織の活動は縮小された。この間に、組織の指導者、学習者が変更となった。2022年度は4年目の調査となったが、参与観察の対象者にインタビュー調査は実施していない。 国立国会図書館での研究資料の収集に関しては、体育・スポーツ科学、民俗芸能、運動学、心理学、脳科学など幅広い分野で、本研究に関連するキーワード検索を行い、数多くの研究論文、図書の内容を閲覧することが出来た。特に、継続性、反復性が求められる学習に関してどのような指導を行うのか、実践的記述を含む資料収集を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に実施した意見交換で採録された音声のトランスクリプトを作成する。トランスクリプト作成後、「なぞり」「さぐり」に関連する記述を精査する。2022年度に実施した参与観察では、指導者が学習者に身体所作の指導を行う場面に焦点を合わせて撮影を行った。参与観察の際に記録したメモをもとにして、「なぞり」「さぐり」の具体的行為が見られる部分を析出する作業を行う。 本研究の調査対象の組織の活動は2023年5月13日から再開がされた。その組織では、過去の4年間で指導者、学習者の変更があったこと、また活動規模が縮小された期間が2年間あったこと、これらから伝承過程の縦断的側面の分析が困難となっている。そのため、2023年度も継続して可能な限り参与観察を行う。2023年度は、指導者の視点から映像を収録する。稽古の全体を撮影したこれまでの映像資料との差異についても留意しながら、映像分析を行う。 映像資料、参与観察のメモなどを参照しながら、指導者に対するインタビュー調査の実施を検討する。インタビュー調査では、撮影した対象者の映像を提示し、そのときの状態や感覚を振り返って表現してもらう再生刺激法にもとづくインタビュー調査を行う予定である。 これまでに収集された文献から、伝統芸能の指導学習プロセス、稽古における技と心など、本研究の核心部分に関する資料の内容を確認する。2023年度も国立国会図書館において身体論、身体教育に関する論文や図書の内容確認を実施予定である。身体教育に関する記述を析出し、その内容を精査する。 研究成果について、スポーツ科学(身体教育)の研究者と意見交換を行い、身体教育における「なぞり」「さぐり」の構造とその意義について考察を深めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響を受け、参与観察が十分実施出来なかった期間が過去2年間あった。そのため、研究期間の延長を行った。研究資料の収集は着実に進んでいるが、参与観察の期間の延長に伴い、次年度も国立国会図書館において身体論、身体教育に関する論文や図書の内容確認、資料収集を行う必要がある。また、研究成果について、身体教育に精通している研究者と意見交換を行うことも検討している。これらの旅費として支出する予定である。
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