研究実績の概要 |
身体活動の不足は世界的に深刻な問題であるが,同じような状況下でも運動行動の生起には個人差があることも事実である.この要因のひとつと考えられる運動に対する動機づけを分析し,運動実践の習慣化との関係を解明することができれば,具体的な心理的アプローチを提案することが可能だと考えられる.そこで本研究では,運動意欲の形成過程について,ベイズ統計モデリングによって生成メカニズムを記述し,それを用いた推論や予測を行うことを目的とした.結果は以下の通りである. ①運動に対する動機づけの個人差に関連する要因について,一般成人を対象とした運動の動機に関する推論と予測の結果では,運動・スポーツの重要性を認知することが重要であり,異性の親よりも同性の親との関係が影響する傾向が確認された. ②運動に関するトピック分析の結果では,運動に関するトピックパターンの特徴として,運動に対する気づきの内容を示す単語のトピック構成率に性差が存在することや,単語の割合推定によって単語から構成される文章が複数のトピックを含んでいることが確認された. ③運動に対する基本的心理欲求と運動経験との関連分析では,各基本的心理欲求の充足には有意な性差と年齢差がみられ,影響を受ける他者との関係性も性別と年齢によって変化する傾向が伺え,やはり父母やきょうだいからの影響は限定的であり,相対的に部活動や友人からの影響の方が大きい傾向がみられた. したがって,運動に対する支援方略や介入行動の提言として,運動実践に繋がる心理面のアプローチからは,周囲の仲間との交遊等でポジティブな経験を得られるように工夫することや,学校やスポーツクラブでの身体活動時に他者からの自律的な支援が望める環境の設定が重要だと考えられる.
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