令和3年度は、生体力学的比喩教示法の運動スキルに対する効果を検証した。 ダーツ初心者の大学生を対象として、ダーツ投げの運動学習実験をおこなった。実験では、「具体的な動きの教示」を与える群(明示的教示群)と「比喩表現の教示」を与える群(生体力学的比喩教示群)に分け、群間比較によって口頭教示法の違いが運動スキル習得に与える効果を分析した。運動スキルの評価のために、ダーツ投げの三次元動作解析から得られる関節角度時系列データに主成分分析法を適用し、関節間運動の協調構造解析を行った。複数の動きの規則情報を統合した単一の生体力学的比喩教示は、特定の関節運動の変動性を減少させ、関節間運動の協調構造を変化させた。重要な知見の一つは、単一の包括的な生体力学的比喩教示による練習を通して獲得された関節間運動の協調構造の変化は、心理的プレッシャーの下でも維持されたことであった。 さらに、小学生を対象として、ダーツ投げの運動学習実験をおこなった。実験では、明示的教示群と生体力学的比喩教示群に分け、群間比較によって口頭教示法の違いが運動パフォーマンスに与える効果を分析した。練習後の保持テストにおいて、生体力学的比喩教示群はダーツパフォーマンスが向上した。一方、明示的教示群において、ダーツパフォーマンスの向上は見られなかった。 本プロジェクトを通して、初心者の運動スキル習得に対する教示のプラス効果のための重要な2つの原則が得られた。1)教示は,明示的か比喩的かは無関係に、複雑な運動規則を非常に単純な情報に統合すべきである。2)類推教示法において、学習者に提供される教示は、複数の運動規則をそれぞれ比喩されるべきではない。
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