研究課題/領域番号 |
19K11619
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研究機関 | 東海学園大学 |
研究代表者 |
石垣 健二 東海学園大学, スポーツ健康科学部, 教授 (20331530)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 一般化された他者 / 一般的他者 / 超越論的他者 / 身体的な感じ / 間身体性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「身体教育によって生成する『われわれ』の独自性」を明らかにすることである。 「われわれ」という認識は、人間同士がかかわりをもつさまざまな状況とそのあり方によって、量的にも質的にもさまざまに異なったそれが成立しているに違いない。そのなかで、体育やスポーツなどの身体教育における「かかわり」によって、「われわれ」という認識が具体的にどのように生成されうるのかを問い、その「われわれ」が他の活動によって生成する「われわれ」といかなる点で異なる独自性を有するかを明らかにしようとするのが本研究である。 研究2カ年目となる本年度は、体育におけるかかわりを身体的対話という視点から捉え直すことで、その独自性について検討をおこなった。(石垣健二、2020,「身体的対話」は言葉の次元を越える!?,体育科教育,68-10)。そこでは、他教科とは異なった「身体的な感じ」がともなう対話としてその独自性が論じられた。 本年度は、さらにミード,G.H.の「一般化された他者」の概念や教育哲学の分野で議論される「われわれ」という認識について検討し、そこにおいて「一般的他者」や「超越論的他者」が獲得され、それと同時に「われわれ」の認識が獲得されることを明らかにした。(石垣健二、2020、身体教育と間身体性:道徳性の礎として、不昧堂出版)。しかし、ミードや教育哲学の分野で論じられる「われわれ」とは、他者と心情的に同質な「われわれ」や論理的・思考的に同質な「われわれ」に焦点化するものがほとんどである。したがって、それらはどちらかというと「心的な感じ」としてのわれわれといえよう。同書では、体育やスポーツなどの身体教育において獲得できるわれわれとは、むしろ「身体的な感じ」としのわれわれであるということを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミード,G.H.の「一般化された他者」の概念について検討し、また教育哲学の分野で議論される「われわれ」の認識について検討することによって、他者とのかかわりのなかで「一般的他者」や「超越論的他者」が獲得されることを明らかにしたことは評価できよう(前掲書)。それは言わば、「われわれ」という認識に先だって、「あなたたち」という認識の獲得があると着眼できたということであり、その「あなたたち」の獲得によって、即応する形で「われわれ」の認識が生成するメカニズムが明らかになったということである。 さらには、「われわれ」という認識について検討するうえで、たとえば学校における「学年」「クラス」「グループ」は、形式的にひとつの「われわれ」を括ることになるが、そのような量的な点からではなく、授業のなかでは、ある学習内容を「理解する者たち」と「理解しない者たち」という質的な点において「われわれ」が括られることを明示できた点も、評価できるだろう。この質的な視点は、個々人にとってわれわれという認識を生成するうえで重要な意味をもたらすことになろう。 その意味では、その質的な視点を身体教育(身体的実践)の問題として捉える場合に、「身体的な感じ」という観点で吟味したことも有意義なことであった(前掲論文)。というのも、本研究では他者と心情的に同質な「われわれ」や、論理的・思考的に同質な「われわれ」とは異なるそれを明らかにしなければならないからである。ここでは、体育やスポーツなどの身体教育において獲得できるわれわれとは、「身体的な感じ」としてのわれわれという認識であることが示唆されたことになろう。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに、体育やスポーツなどの身体教育によって獲得できるわれわれとは、「身体的な感じ」としてのわれわれという認識であることを示唆したが、そのわれわれとは具体的にどのような認識なのだろうか。今後の研究は、その具体的なあり方を探ることになるだろう。 したがって、今後も引き続き文献収集とその読解を中心に研究をすすめてゆく必要がある。これまで通り哲学および心理学の文献を精読することによって、われわれという認識の本質にせまらねばならない。また、教育学や体育学の文献収集とその読解はこれまで以上に重要となるだろう。というのも、教育や体育の現場において、どのような具体的事例においてわれわれという認識が生成するのかを検討・分析をしてゆく必要があるからである。その分析を通して、身体教育によって生成する「われわれ」の独自性がより明確になろう。 そのためにも、引き続き関連諸学会に参加し、上記の内容について同領域研究者に着想・構想の妥当性について評価を得たい。そして、その成果については、関連諸学会・研究会において発表の機会をもつとともに、学会の論文誌に積極的に投稿することで公表したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた最大の理由は、新型コロナウィルスの影響によって、参加を予定していた所属学会がオンライン開催となったこと、また特に国際学会が開催中止となり発表が実現しなかったこと、さらには国外調査がおこなえなかったこと(旅費の未使用額)が大きい。 次年度使用額については、国際学会(クロアチア・スプリット)での発表および国外調査旅費(フランス・パリ)として使用する計画である。前者では、「身体的な感じ」としてのわれわれという認識に関わる発表をおこない、現象学が盛んな欧州の研究者を中心に意見聴取をするつもりである。また、国外調査としては、間身体性など本研究の鍵概念になっている現象学者:メルロ=ポンティ,M.が教鞭をとったソルボンヌ大学などで、現象学の本質を探る予定である。
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