研究課題/領域番号 |
19K11619
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研究機関 | 東海学園大学 |
研究代表者 |
石垣 健二 東海学園大学, スポーツ健康科学部, 教授 (20331530)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 身体的な「われわれ」 / 身体的一般化 / 身体的な主我と客我 / 道徳性の礎 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,「身体教育によって生成する『われわれ』の独自性」を明らかにすることである。 研究4カ年目となる本年度は、G.H.ミードの「一般化された他者」「主我」「客我」の概念に着想を得ながら,スポーツの具体的事例について検討した(School physical education as the education for intercorporeality: An investigation into “the corporeal generalized other” and the corporeal “we”).一般化された他者とは,複数の他者とかかわるなかで他者の態度が一般化(抽象化)されることであり,そこでは主我と客我のやりとりがおこなわれている.同様にして,スポーツの具体的事例を分析するならば,そこでは身体的な一般化が生じており,身体的な主我と客我のやりとりをとおして身体的な「われわれ」が生じていることになろう.身体的一般化とは,複数の他者と身体運動を実践するなかで他者の「身体的な感じ」が一般化されることであり,身体的な「われわれ」とは,身体的な感じとしての「われわれ」という認識である. また,学校体育のなかでは「身体的な感じ」をともなう対話が成立しており,そこでは単なる心理的な「われわれ」ではなく,身体的な「われわれ」が生じていること,そしてそれが道徳性の礎として働いており,それが体育によって生成する「われわれ」の独自性となる.この内容は,英国のImpact誌にとりあげられ紹介された.(Kenji ISHIGAKI(2022)Uniqueness of "us" created by physical education: The Value of Physical Education,Impact).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,G.H.ミードの「一般化された他者」等の概念から着想を得て,スポーツなどの身体運動を実践するなかでも他者の「身体的な感じ」を一般化すること,そしてそれを身体的な主我と客我のやりとり(身体的対話)として捉えることによって,そこで身体的な「われわれ」が生成することを導いた.この身体的な「われわれ」という認識は,現象学者M.メルロ=ポンティの論じる間身体性にほかならない.この内容は、国際スポーツ哲学会で発表され,外国人研究者からも肯定的な参考意見が得られたことは有意義であった. また,英国のImpact誌に,「体育が創造しうる「われわれ」の独自性」とのタイトルで研究内容の紹介がされた.このことは,諸外国の関連研究者との共同研究あるいは意見徴収の拡大という意味において,研究の大きな進展であった.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに、体育やスポーツなどによって獲得できるわれわれとは、「身体的な感じ」としてのわれわれという認識であること,そして,それは他者の「身体的な感じ」を一般化すること,それと同時にそれを「われわれ」の身体的な感じとして認識することであることを導いた.このことは,身体的な「われわれ」が生成するメカニズムの独自性を明らかにしたということになろう。 今後は,この他者に対する一般化のメカニズムとは異なる普遍化のメカニズムに迫る必要があろう.したがって、今後も引き続き文献収集とその読解を中心に研究をすすめてゆく必要がある。したがって,これまで通り哲学および心理学の文献を精読することによって、われわれという認識の本質にせまらねばならない。また、教育学や体育学の文献収集とその読解はこれまで以上に重要となるだろう。特に,普遍化するという事態はいかなる現象であるのかを探りながら,それが教育や体育の現場において、どのような具体的事例として示されるのかを検討・分析をしてゆかねばならない。その分析を通して、身体的一般化とは異なる,身体的普遍化によって生成する「われわれ」がより明確になろう。 そのためにも、引き続き関連諸学会に参加し、上記の内容について 同領域研究者に着想・構想の妥当性について評価を得たい。そして、その成果については、 関連諸学会・研究会において発表の機会をもち公表したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた最大の理由は、新型コロナウィルスの影響によって、参加を予定していた所属学会への参加が減じたこと,さらにはフランスでの国外調査がおこなえなかったこと(旅費の未使用額)が大きい。 次年度使用額については、国際学会(クロアチア・スプリト)での発表および国外調査旅費(フランス・パリ)として使用する計画である。前者では、 身体的普遍化と関連して生成する身体的な「われわれ」の認識について発表をおこない、現象学が盛んな欧州の研究者を中心に意見聴取をするつもりである。また、国外調査としては、間身体性など本研究の鍵概念になっている現象学者:メルロ=ポンティ,M.が教鞭をとったソルボンヌ大学などで、現象学の本質を探る予定である。
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