研究実績の概要 |
運動による心身への恩恵は知られていても,運動を継続するのは難しい.例えば,運動する者とそうでない者の二極化や世界の4人に1人が運動不足という現状がある.動機づけは,その現状を改善し得る要因として考えられている.運動領域の動機づけ研究では,有能感や自己決定感の個人要因に加えて他者との関わり等の環境要因を重視する.最近では主な研究手法である質問紙法の短所から,自己報告に頼らない測定法の開発も進み,さらには,言葉かけ等の働きかけがなくても,動機づけが増強する集団編成の研究も着手されている.しかし,先行研究の主たる目的は影響要因の解明である.実践研究でも介入群と統制群に条件を設するのみで,運動中の動機づけの変化に対応する介入は想定されていない.ゆえに,実践への示唆は推測のままという解決できていない問題が長らく残されている.この問題の原因は,動機づけを静的な心理過程として捉えている点に尽きる.本来,動機づけとは動的な心理過程であるとされながらも,運動経験から生起する心理的動態は解明されていない.そこで,「どうすれば動的な心理過程を解明できるのか」を研究課題の核心をなす学術的な「問い」とした.この「問い」に対して,既に動的な心理過程の解明に相互作用的視点を取り入れている社会心理学,言語心理学,発達心理学の手法を応用するのが有力と考えた.豊かなスポーツライフの実現に運動の継続は欠かせない.その運動の継続を促す動機づけを新しい視点から検討していくことは,推進すべき,重要な研究課題と考える.2019年度は,マウスパラダイムという手法により動的な心理状態の測定を試みることを目的とした.しかし,所属機関の実験室改修により,実験を予定通りに進めることができなかった.また,マウスパラダイムの測定環境の整備に時間もかかったため,2002年に予定としていた回顧的定性モデリングの予備調査を先に進めた.
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