研究課題/領域番号 |
19K11626
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
岩館 雅子 日本大学, 生産工学部, 准教授 (40409280)
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研究分担者 |
柳澤 一機 日本大学, 生産工学部, 講師 (50712311)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 予測的循環調節 |
研究実績の概要 |
研究期間1年目は、健康成人20名を対象とし、最大努力での右手握力発揮という運動ストレス条件と運動を行わない対照条件を設け、①安静期の心理的不安度(STAI状態-特性不安検査)、②準備期の心循環反応(心拍数と心拍変動成分)、③準備期の脳血流信号(近赤外分光法による各ヘモグロビン濃度)、④回復期の唾液ストレスマーカー(コルチゾール)を同時計測した。実験終了後、各データについて、条件間比較およびパラメータ間の相関を求め、次の学術的問いについて検討した。 (1)運動ストレスの準備期における心拍数増加と背外側前頭前野(DLPFC)の非対称性活動の対応:運動条件の心拍数については、運動開始前2分間に設定した準備期において顕著な増加が示された。DLPFCについては、左DLPFCでは顕著な血流増加(酸素飽和度の増加)が生じたのに対し、右DLPFCでは生じなかった。この結果から、運動準備期における予測的な心循環反応と運動肢と反対側のDLPFCの賦活は同時期に発現することが示された。 (2)準備期の副交感神経活動の低下と運動後のコルチゾール値の上昇の関連:運動条件の副交感神経活動指標RMSSD(心拍変動成分)は、運動開始前1分間において顕著に低下した結果から、予測的な心循環反応として副交感神経活動が低下することが示された。また、運動後に計測したコルチゾールについては、分析対象とした9名において、運動20分後のコルチゾール値と準備期のRMSSDに正の相関が示された結果から、準備期の副交感神経活動の低下が大きいほど、運動20分後におけるHPA系の回復が速いと推測された。 (3)安静期の状態不安度と準備期における心循環応答との対応:状態不安度および特性不安度においては、準備期におけるRMSSDとの間に有意な相関はみられなかった結果から、心理的不安度と準備期のストレス反応との関連は低いと推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間1年目は、研究分担者の協力により、実験参加者を当初の予定通り20名集めることができ、また、夏季休業期間に研究分担者と協同して短期で集中的に実験を実施し、データを集めることができた。実験終了後は取得したデータの解析期間に当てた。 唾液ストレスマーカー(コルチゾール)のデータ、心循環反応のデータ、心理評価のデータについては、当初の計画通り、研究責任者がデータ整理および分析を行った。唾液ストレスマーカー(コルチゾール)のデータについては、8月下旬から10月上旬にかけて、測定サンプル140個(実験参加者1人につき7サンプル×20名)の分析を行った。しかしながら、データを解析していくなかで、数値がゼロというサンプルが続出したため、業者に問い合わせたところ、購入したコルチゾール測定キットに一部問題があったことが発覚した。その後、残っているサンプルを用いて業者に再分析を依頼した。そのような中で、最終的には、分析対象となるデータが9名となってしまうというトラブルがあった。心循環反応のデータについては、無線送信により計測した心拍データを20名分取得することができ、周波数解析および時間領域解析を行い、心臓副交感神経活動の指標となる心拍変動成分のデータを取得することができた。心理評価のデータについては、20名分のSTAI状態-特性不安検査の得点を取得することができた。 脳血流信号データについては、当初の計画通り、研究分担者に各ヘモグロビン濃度および左右差バランスの解析を担当してもらい、解析データは10月上旬という早期に提供してもらうことができた。 取得できたデータについては、各種、条件間比較およびパラメータ間の相関を算出し、関連を検討することができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間2年目の当初の予定は、研究期間1年目と同様に、20名の健康成人を対象に、最大努力での左手握力発揮という運動ストレス条件と運動を行わない対照条件を設け、①安静期の心理的不安度(STAI状態-特性不安検査)、②準備期の心循環反応(心拍数と心拍変動成分)、③準備期の脳血流信号(近赤外分光法による各ヘモグロビン濃度)、④回復期の唾液ストレスマーカー(コルチゾール)を同時計測し、実験終了後、各データについて、条件間比較およびパラメータ間の相関を求める予定であった。しかしながら、新型コロナウイルス感染防止のため、不要不急の外出を控え、人との接触を8割減らす必要があるとされる4月末の現在の社会の実情を考えると、人を対象に実験室内で生体信号を記録する本実験は、今年度中に実験を実行するのは難しいのではないかと考えている。そのため、研究期間2年目に予定していた実験内容は、研究期間3年目(最終年度)へ後ろ倒しとして実行したいと考えている。そのため、研究期間2年目は、研究期間1年目で取得したデータに対する解析の追加や、それらを用いた成果物の作成を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目に旅費を50000円計上していたが、次年度に移行した理由は、参加を予定していた学会の開催日程が、所属大学において担当している授業日程と重なり、参加が困難であったためである。2年目に1年目の分を合わせて使用したいと考えている。使用予定の学会としては、8月下旬の日本運動生理学会(沖縄)へ参加を予定しているが、開催が4月末現在の社会の実情から開催が難しい場合もある。
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