わが国の悪性新生物による死因は、全死因の28.5%を占め、大腸癌の死亡率は、男性で3位、女性で1位である。この大腸癌の発症・進展には食事などの環境因子が与える影響が非常に大きいが、その詳細なメカニズムは未だ多くが明らかになっていない。これまでに、食事に含まれる栄養素の量的・質的変化が寿命に影響を与えること、およびその分子メカニズムを明らかにし、食事誘導性の大腸癌発症メカニズムとして、腸炎および大腸癌を抑制する生理活性物質ISPP1の同定に成功した。本課題では、(1)高タンパク食による生理活性物質ISPP1の発現・分泌抑制メカニズムの解明、(2) ISPP1の腸内細菌叢に与える影響の検討、(3)組織特異的ISPP1欠損マウスを用いた大腸癌発症メカニズムの解明を目的とし、これまでに明らかにされていない食事誘導性の大腸癌発症メカニズムを明らかにする。 (1)高タンパク食によるISPP1の発現・分泌抑制メカニズムの解明:ISPP1の発現を制御する規定因子をノックダウンした系を用いた発現解析を行った。また、高タンパク食によるISPP1の発現パターンを検証した。(2)ISPP1の腸内細菌叢に与える影響の検討:ISPP1の腸内容物のメタボローム解析および代謝産物と大腸癌との相関解析を行った。(3)組織特異的ISPP1欠損マウスを用いた大腸癌発症メカニズムの解明:組織特異的ISPP1欠損マウスを用い、大腸癌の発症頻度を検証し、腸内細菌叢の解析を行った。(1)-(3)によって得られた結果を統合し、生理活性物質ISPP1の発現・分泌低下を介した高タンパク食による大腸癌発症メカニズムの一部を明らかにした。
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